冬季スポーツの華であるカーリングを観戦していると、選手たちが氷の上を滑らせるあの大きな石が気になりますよね。一見するとどれも同じように見える石ですが、実は非常に厳格な規格と驚きの秘密が隠されています。
この記事では、カーリングストーンの重さや値段、そして使われている特別な素材について詳しく解説します。石の正体を知ることで、選手たちが一投に込める技術の凄さがより鮮明に見えてくるはずです。
「氷上のチェス」とも呼ばれる知的な戦略バトルを支える、この不思議な道具の魅力を一緒に深掘りしていきましょう。観戦がもっと楽しくなる知識をたっぷりとお届けします。
カーリングストーンの重さ・値段・素材の基本スペック

まずは、カーリングの試合で使われるストーンがどのようなものなのか、その基本的なデータを確認していきましょう。私たちが想像するよりもずっと重く、そして高価な道具であることがわかります。
石の重さはどれくらい?公式ルールによる規定
カーリングストーンの重さは、世界カーリング連盟によって厳格に定められています。公式な規定では、1個あたりの重さは17.24kgから19.96kgの間でなければなりません。ハンドル部分やネジも含めた総重量での計測となります。
一般的には「約20kg」と表現されることが多いですが、これは10kg入りの米袋を2つ同時に持つのと同じくらいの重さです。選手たちはこの重い石を、氷の上でミリ単位の正確さをもってコントロールしています。男子選手も女子選手も、同じ重さのストーンを使用して競い合います。
なお、初心者や子供向けには、一回り小さくて軽い「ハーフストーン」と呼ばれる練習用の石も存在します。しかし、テレビで観戦するような公式大会では、この約20kgという重量感が試合の慣性やスピード感を決める重要な要素となっています。
1個あたりの値段と1セット(16個)の合計価格
次に気になるのがそのお値段です。カーリングストーンは非常に高価で、一般的に1個あたり約10万円から15万円程度が相場となっています。ただし、ストーンは通常、バラ売りではなく1試合に必要な16個を1セットとして販売されることがほとんどです。
1セット揃えるとなると、輸送費なども含めて160万円から200万円近い費用がかかる計算になります。これほど高価な理由は、後述する希少な天然石を使い、熟練の職人が長い時間をかけて加工しているためです。まさにスポーツ用具のなかでも最高級品の一つと言えるでしょう。
この価格の高さから、選手が自分専用の「マイストーン」を持つことはまずありません。多くの場合はカーリング場が備品として所有しており、選手は会場に用意された石を借りてプレーします。ボウリング場にあるハウスボールを使う感覚に近いですが、その価値は比べものにならないほど貴重です。
【カーリングストーンの主な規格一覧】
| 項目 | 規定・数値 |
|---|---|
| 重さ | 17.24kg ~ 19.96kg |
| 最大外周 | 約91.44cm(36インチ)以内 |
| 最小高さ | 約11.43cm(4.5インチ) |
| 標準価格(1個) | 約10万円 ~ 15万円 |
素材は世界でたった一つの島から採れる「花崗岩」
カーリングストーンの最大の秘密は、その素材にあります。使われているのは「花崗岩(かこうがん)」という御影石の一種ですが、どんな石でも良いわけではありません。公式大会で使用されるストーンの多くは、スコットランドの「アイルサ・クレイグ島」から採掘された石で作られています。
この島で採れる花崗岩は、非常に密度が高く、水分をほとんど吸収しないという特徴を持っています。氷点下の過酷な環境で使用しても、石の内部に水が入り込んで凍って割れる心配がありません。また、非常に硬いため、ストーン同士が激しくぶつかり合っても欠けにくい性質があります。
かつては世界各地の石が試されたこともありましたが、アイルサ・クレイグ島産の石に勝る品質のものは見つかりませんでした。現在では、この島から採掘された素材を使うことが、世界のトップレベルで戦うための「標準」として定着しています。
希少な素材「アイルサ・クレイグ島」の石が選ばれる理由

なぜ特定の島の石だけが、これほどまでに重宝されるのでしょうか。そこには地質学的な理由と、カーリングという競技特有の激しい衝撃に耐えるための知恵が詰まっています。
衝撃に強いコモングリーンと滑らかなブルーホーン
アイルサ・クレイグ島で採れる花崗岩には、主に2つの種類があります。一つは「コモングリーン」と呼ばれる石で、主にストーンの本体部分(ボディ)に使用されます。この石は粘り強さがあり、他の石と激突した際の衝撃を吸収し、ひび割れを防ぐ役割を果たしています。
もう一つが「ブルーホーン」と呼ばれる非常に希少な石です。これはストーンの底面、つまり氷と直接触れる部分(インサート)に使用されることが多い素材です。ブルーホーンは非常に密度が高く滑らかで、氷との摩擦が安定しているため、石の曲がり具合や滑りを予測しやすくなります。
最近の高級ストーンは、この2種類の石を組み合わせて作られるハイブリッド構造が主流です。衝撃に強い石で体を作り、滑りの良い石を底に埋め込むことで、耐久性と競技性の両立を実現しています。このように、一つのストーンのなかでも素材が使い分けられているのです。
なぜ他の場所の石ではいけないのか?
世界中には他にも花崗岩の産地は無数にありますが、それらの多くは微細な隙間があり、わずかに水分を吸収してしまいます。吸水率が高い石を氷の上で使うと、吸収された水分が凍って膨張し、石が内側からボロボロに崩れてしまうのです。
また、強度が足りない石では、ストーン同士がぶつかった際に表面が粉を吹いたり、形が歪んだりしてしまいます。そうなると氷の上が汚れてしまい、石の滑りに悪影響を与えてしまいます。アイルサ・クレイグ島の石は、これらの問題をすべてクリアできる究極の素材なのです。
過去には他の産地の石が使われたこともありましたが、やはりアイルサ・クレイグ島産に比べると寿命が短く、プロの試合には耐えられませんでした。そのため、現在でもオリンピックなどの大舞台では、この島の石が絶対的な信頼を得て選ばれ続けています。
自然保護のために制限される貴重な採掘サイクル
これほどまでに優れた素材ですが、実はいつでも好きなだけ採れるわけではありません。アイルサ・クレイグ島は現在、自然保護区に指定されており、海鳥の繁殖地としても非常に重要な場所です。そのため、環境への影響を最小限に抑えるため、採掘は数年に一度しか許可されません。
一度の採掘で数千個分もの原石が切り出され、それがスコットランド本土の工場へ運ばれます。限られた資源を守りながら、伝統的な道具作りが続けられているのです。この希少性もまた、カーリングストーンの価格が高騰する一つの要因となっています。
「いつかは無くなってしまうのではないか」と心配されることもありますが、現在の計画的な採掘と、石自体の寿命が非常に長い(100年以上使えることもある)ことから、当面は供給が途絶える心配はないと言われています。それでも、私たちが試合で見ている石は、地球が生み出した大変貴重な宝物であることに変わりはありません。
氷の上を自在に滑るストーンの構造とパーツ

カーリングストーンは単なる丸い石ではありません。氷の上で独特な動きを演出するために、細部まで計算し尽くされた構造を持っています。それぞれのパーツが果たす役割を知ることで、観戦時の視点が変わります。
氷と接するわずかな面「ランニングリング」
ストーンの底を裏返してみると、意外な発見があります。実は底面全体が氷に接しているわけではありません。中心部分はボウルのように窪んでおり、実際に氷と触れているのは外周に近い「ランニングリング」と呼ばれる細いドーナツ状の部分だけです。
このリングの幅はわずか1cmほどしかありません。接地面を最小限に抑えることで摩擦を減らし、20kg近い重い石が40メートル以上も先まで滑っていくことを可能にしています。もし底が真っ平らだったら、摩擦が大きすぎてこれほどスムーズには滑りません。
また、このランニングリングが氷の表面にある「ペブル(微細な氷の粒)」と接触することで、ストーン特有の「カール(曲がり)」が生まれます。選手たちが石を放す際に回転を加えるのは、このリング状の接地面を利用して、狙った方向へ石を誘導するためなのです。
石同士が激しくぶつかる「ストライキングバンド」
ストーンの側面、一番膨らんでいる部分を「ストライキングバンド」と呼びます。ここは試合中にストーン同士が激しく衝突する場所です。ぶつかり合った際にエネルギーを効率よく伝え、かつ自分自身が破損しないように、最も頑丈な石の層が配置されています。
このバンド部分は、製造過程で細かく表面を荒らして加工されることがあります。これにより、石同士が当たった際に滑りすぎず、狙った角度で相手の石を弾き飛ばせるようになっています。非常に高い精度で円形に磨き上げられており、わずかな歪みも許されません。
試合が進むにつれて、このストライキングバンドには無数の小さな傷がつくことがありますが、それが原因で石が割れることは稀です。これもアイルサ・クレイグ島産の花崗岩が持つ、驚異的な「粘り」のおかげです。ぶつかる衝撃音はカーリング観戦の醍醐味の一つですね。
持ちやすさと個性を決める「ハンドル(取っ手)」
石の上部に取り付けられた色鮮やかな取っ手は「ハンドル」と呼ばれます。赤や黄色が一般的ですが、これはチームを識別するための重要なマーカーです。素材は主に強化プラスチックや軽量な金属で作られており、丈夫で握りやすい形状に設計されています。
ハンドルはボルトで石の本体に固定されており、必要に応じて交換することも可能です。国際大会などでは、最新のセンサーを内蔵した特別なハンドルが使われることもあります。これは「ホッグライン」という線を越える前に選手が手を離したかどうかを、LEDの光で判定するための仕組みです。
選手にとって、ハンドルは自分の意思を石に伝える唯一の接点です。石を放す瞬間のデリケートな指先の感覚を邪魔しないよう、非常に滑らかに仕上げられています。観戦時には、選手がハンドルのどこを握り、どの方向に回転を与えているかに注目してみてください。
ストーンの色(ハンドルの色)は、先攻・後攻を見分ける目印です。基本的にはテレビ画面で見て左側のスコアボードの色と対応しています。
ストーンの製造メーカーとメンテナンスの舞台裏

世界中で愛されているカーリングストーンですが、その製造を一手に引き受けているメーカーが存在します。また、石を常にベストな状態に保つためのメンテナンス技術も非常に高度なものです。
世界シェアを独占する名門「ケイズ・オブ・スコットランド」
カーリングストーンの世界で圧倒的なシェアを誇るのが、スコットランドにある「ケイズ・オブ・スコットランド(Kays of Scotland)」という老舗メーカーです。1851年の創業以来、アイルサ・クレイグ島の石を使った伝統的な製法を守り続けています。
このメーカーは世界カーリング連盟から唯一の公式認定を受けており、オリンピックで使用されるストーンはすべてここから出荷されます。いわば、世界のカーリング界を支える心臓部のような存在です。従業員数はそれほど多くありませんが、少数精鋭の職人集団が世界中の需要に応えています。
ケイズ社以外にも数社、製造を行っているメーカーはありますが、品質と歴史の面でケイズ社の右に出るものはいません。彼らの作るストーンは「一生モノ」と言われるほど頑丈で、メンテナンスをしっかり行えば数十年、ときには100年以上使い続けることができます。
熟練の職人が手作業で仕上げる精巧な加工
ストーンの製造工程は、まさに芸術品を作る作業に似ています。まず、島から切り出された巨大な原石を大まかな形にカットし、そこから旋盤を使って少しずつ円盤状に削り出していきます。最後は職人が手作業で、ミリ単位の誤差も出ないよう丁寧に磨き上げていきます。
特に重要なのが、底面のランニングリングの調整です。左右対称に、そして均一な粗さに仕上げなければ、石は真っ直ぐ滑らなかったり、変な方向に曲がったりしてしまいます。この「石の性格」を決める繊細な仕上げは、機械だけでは決して再現できない職人技の領域です。
石の表面をどれだけ滑らかにするか、あるいはあえて特定の箇所を少し荒らすかといった微調整により、競技に適した完璧なストーンが完成します。一つのストーンが出来上がるまでに、膨大な時間と労力が注ぎ込まれているのです。
性能を維持するための表面の研磨とクリーニング
一度完成したストーンも、使い続けるうちに氷との摩擦で表面が少しずつ変化していきます。そのため、定期的なメンテナンスが欠かせません。試合の前には、スタッフが専用のクリーナーや布を使って、石の底面や側面の汚れ、氷のカスを徹底的に取り除きます。
また、長期間の使用でランニングリングがすり減ってきた場合には、サンドペーパーを使って表面を優しく研磨する「ペーパーがけ」という作業が行われます。これにより、石の曲がり具合を適切な状態に復活させることができます。
驚くべきことに、これらのメンテナンスの多くは現在でも人間の手によって行われています。氷の状態は毎日、あるいは試合の最中でも変化するため、それに合わせて石を最高のコンディションに保つには、やはり人間の経験と感覚が必要不可欠なのです。
観戦がもっと面白くなる!ストーンにまつわる豆知識

カーリングのストーンには、ルールや物理的な特性以外にも興味深いエピソードがたくさんあります。こうした裏話を知っておくと、中継を見ているときの何気ないシーンがより面白く感じられるでしょう。
マイストーンは持たない?会場備品の石を使うルール
先述の通り、カーリング選手は自分のストーンを持ち歩くことはありません。これには価格の問題だけでなく、競技の公平性を保つという理由もあります。自分の石を使えると、自分だけに有利な「クセ」を持った石を用意できてしまうからです。
すべての選手が会場に用意された共通のストーンを使うことで、純粋に「石の特性をいかに早く見抜くか」という技術を競うことができます。試合前に行われる練習時間(練習投球)は、その日その会場にある石がどのように滑り、どのように曲がるかを確かめるための極めて重要な時間です。
重さも形も規格化されているとはいえ、天然の石である以上、1個ずつ微妙な個体差があります。それを瞬時に読み取る能力も、一流選手には求められます。選手が石の番号を小声で確認し合っているのは、こうした個体差をチームで共有するためなのです。
石には一つひとつ「クセ」がある?アイスリーディングの重要性
カーリングの試合中、スキップ(司令塔)が「この石は少し重い(滑りにくい)」「この石はよく曲がる」といった指示を出しているのを聞いたことはありませんか。これは単なる比喩ではなく、実際に石ごとにわずかな挙動の違い、つまり「クセ」が存在するからです。
製造段階で完璧に調整されていても、長年の使用や保管状況、その日の氷の質との相性によって、滑りの伸びが変わることがあります。この個別のクセを把握し、戦略に組み込むことを「アイスリーディング」と呼びます。
例えば、特に重要なラストショットには、チームで最も信頼している(クセが少なく読みやすい)石を使うように調整することもあります。テレビ画面からは見えない、この「石との対話」が行われていることを知ると、一投一投の緊張感がさらに増してくるはずです。
試合中に石が壊れた場合はどうなるのか
めったに起きないことですが、激しい衝突によってストーンが割れたり、欠けたりする事故が絶対にないとは言い切れません。もし試合中にストーンが破損してしまった場合、ルールではどうなるのでしょうか。
カーリングの公式ルールでは、ストーンが破損した場所で速やかにプレーを中断し、代わりのストーンを配置して再開することになっています。もし投球中に石が割れた場合は、その石の最大の破片が止まった場所を有効とするか、あるいはやり直しにするかといった判断が審判によって下されます。
しかし、アイルサ・クレイグ島産の石は驚くほど丈夫なので、実際に割れるシーンを目にすることはまずありません。それほどまでに、このスポーツを支える道具は信頼性が高く、堅牢に作られているのです。こうした安心感があるからこそ、選手たちは思い切ったパワーショットを放つことができるのです。
カーリングの重さや値段・素材のまとめ
いかがでしたでしょうか。普段何気なく見ていたカーリングストーンには、実は驚くほど多くのこだわりと歴史が詰まっていることがお分かりいただけたかと思います。
最後に、この記事で紹介した重要なポイントを振り返ってみましょう。
- 重さ:1個あたり約20kg。公式規定では17.24kg~19.96kgと決められている。
- 値段:1個10万円から15万円。1セット(16個)揃えると数百万円にもなる高級品。
- 素材:スコットランドの「アイルサ・クレイグ島」産の花崗岩が最高級とされる。
- 構造:底面の「ランニングリング」だけが氷に接し、滑らかな動きを生んでいる。
- 製造:スコットランドの老舗「ケイズ社」が世界中の大会用ストーンを一手に担っている。
カーリングは、この20kgの重厚な石を、氷の粒が並ぶ繊細なフィールドの上で操るスポーツです。一見すると静かな競技に見えますが、その裏には希少な天然資源、職人の高い技術、そして道具の個性を読み切る選手たちの知略が渦巻いています。
次にカーリングの試合をテレビや現地で観戦するときは、ぜひ石のハンドル部分の色や、石同士がぶつかり合う音、そして氷の上を滑るランニングリングの動きに注目してみてください。道具の背景を知ることで、冬季スポーツの奥深い魅力がさらに広がっていくはずです。



