ウィンタースポーツの中でも、氷上の格闘技と呼ばれるほど激しい攻防が繰り広げられるのがショートトラックです。狭いトラックを複数の選手が同時に滑るため、追い越しやコーナーでの接触は日常茶飯事です。
しかし、一見すると何が起きたのか分からないまま選手が失格になるシーンも少なくありません。特に最近では審判の判定が厳格化されており、ショートトラックの反則の種類や、重い罰則であるイエローカードの基準を知っておくと、観戦がさらに面白くなります。
この記事では、初心者の方でも安心して楽しめるように、代表的な反則のルールからビデオ判定の仕組みまで、やさしく丁寧に解説していきます。ルールを深く知ることで、選手の高度なテクニックや駆け引きがより鮮明に見えてくるはずです。
ショートトラックでよく見られる反則の種類とイエローカードの基礎知識

ショートトラックを観戦していると、レース終了後に「PEN(ペナルティ)」という表示が出て、上位でゴールした選手が失格になる場面をよく目にします。この競技は、着順を競うため、相手を妨害して有利に立とうとする行為には厳しいルールが設けられています。
抜きつ抜かれつの攻防が魅力!反則が起こりやすい理由
ショートトラックは1周111.12メートルの短いトラックを、4人から6人の選手が同時に滑り抜けます。最高時速は50キロ近くに達し、そのスピードで鋭いコーナーを曲がるため、選手同士の距離は常に数センチ単位という極限の状態です。
追い越しを仕掛ける際には、わずかな隙間に体を割り込ませる必要があり、そこで意図しない接触や進路の交錯が生まれてしまいます。審判は、その接触が競技の公平性を損なうものだったのか、それとも正当な競り合いだったのかを瞬時に判断しています。
また、順位が目まぐるしく入れ替わるため、焦りから無理なコース取りをしてしまうことも反則の原因となります。観客にとっては、そのスリルが醍醐味ですが、選手にとってはルールとの戦いでもあるのです。
イエローカードとレッドカードの決定的な違い
ショートトラックにも、サッカーのようにカードによる罰則が存在します。まず「イエローカード」は、単なる警告ではなく、非常に重い制裁を意味します。これが提示されると、そのレースでの失格はもちろん、その距離(種目)で得たすべての記録や順位が抹消されてしまいます。
具体的には、予選や準決勝を勝ち上がっていたとしても、それらの結果もすべて無効になります。一方の「レッドカード」は、さらに深刻な違反があった場合に提示されるものです。これを受けると、その大会そのものから除外され、今後一切のランク付けもされません。
一般的に、一つのレースで複数の危険な反則を重ねたり、あまりに危険な行為だと判断されたりした際にカードが出されます。カードの色によって、その後の競技人生や大会成績に与えるダメージが大きく変わるため、選手は細心の注意を払っています。
ペナルティを受けるとどうなる?失格後の流れ
審判によって反則とみなされ「ペナルティ」が科されると、その選手の順位はなくなります。ショートトラックでは「PEN」と略されて表示されることが多いです。通常のペナルティであれば、そのレースのみが失格となり、その種目の下位順位として扱われることになります。
例えば準決勝でペナルティを受けた場合、決勝に進むことはできませんが、それ以前のラウンドの結果は保持されます。しかし、前述したイエローカード以上の判定になると、その大会でのポイントがすべて失われるため、年間ランキングにも影響を及ぼします。
レースが終わった後、審判員がモニターでリプレイを確認している時間は、選手も観客も緊張に包まれます。公式結果が出るまでは、たとえ1位でゴールしても安心できないのが、この競技の厳しさであり、また予測できない面白さでもあるのです。
レース中に頻発する「接触」に関する主な反則ルール

ショートトラックで最も多い反則は、選手同士の体がぶつかることで発生するものです。追い越しや守りの場面で、どこまでが認められるのか、その代表的なケースを見ていきましょう。
進路を塞ぐ「インピーディング」
「インピーディング(Impeding)」は、日本語で「進路妨害」と訳されます。これは、追い越そうとしている選手の進路を、不当にブロックしたり妨げたりする行為を指します。基本的に、前を滑っている選手にはコースを選ぶ優先権がありますが、後ろからの選手をブロックするために急激にコースを変えることは許されません。
例えば、コーナーの入り口で内側にスペースを空けていたのに、後ろの選手が入り込んできた瞬間に無理やり閉めるような動きは反則となります。また、体のどこかを使って相手を外側に追いやる行為もこれに含まれます。
この判定のポイントは、「どちらの選手が先にその進路を確保していたか」です。審判はスロー映像を何度も確認し、妨害の意図があったか、あるいは回避可能だったかを厳密にチェックしています。非常に判断が難しいため、最も議論を呼ぶ反則の一つです。
力技で相手を退ける「プッシング」
「プッシング(Pushing)」は、その名の通り、手や体を使って相手を押す反則です。ショートトラックでは、バランスを保つために手を氷につくことはありますが、相手選手を突き飛ばしたり、進路から押し出したりするために手を使うことは厳禁です。
コーナーでの競り合いで、肩をぶつけ合うシーンはよく見られますが、明らかに腕を伸ばして相手の体を押している場合はプッシングとみなされます。これにより相手がバランスを崩したり、転倒したりした場合は、ほぼ確実に失格の対象となります。
ただし、リレー競技において、チームメイトを後ろから押して加速させる行為は「プッシュ」と呼ばれ、正当な交代手段として認められています。同じ「押す」という動作でも、相手チームに対して行えば反則、自チームに対して行えばルール通りのプレーとなるのです。
意図的にコースを外れる「オフ・トラック」
ショートトラックのリンクには、コースを仕切るための「ブロック(小さなゴム製の部品)」が置かれています。このブロックの内側を滑ることは「オフ・トラック(Off-track)」という反則になります。つまり、コースをショートカットして距離を稼ぐ行為です。
スケート靴の刃(ブレード)のどちらか一方が、完全にブロックの内側の氷に触れてしまうと判定の対象になります。激しい競り合いの中で、外側に押し出されてしまい、結果として内側に入ってしまった場合などは情状酌量されることもあります。
しかし、意図的に最短距離を走って追い越しを有利に進めたと判断されれば、即座に失格となります。トップ選手たちは、ブロックのギリギリを攻めて滑りますが、ほんの数センチのミスが命取りになるという、非常に精密な技術が求められるルールです。
インピーディングとプッシングの違い
・インピーディング:コースの取り方や体の位置で相手の邪魔をする「進路の妨害」
・プッシング:手や腕を使って物理的に相手を動かす「力の行使」
どちらも接触が原因ですが、どのように妨害したかによって呼び名が変わります。
安全を守るための厳格な反則と特殊なケース

ショートトラックは刃のついたスケート靴で高速滑走するため、一歩間違えば大怪我につながります。そのため、選手の安全を守るために特に厳しく設定されているルールがあります。
フィニッシュ時の危険な行為「キッキング・アウト」
ゴールラインを通過する際、少しでも早くフィニッシュしようとして足を前に突き出す動作を「キッキング・アウト(Kicking-out)」と呼びます。この時、スケート靴の刃が氷から大きく浮き上がり、後ろの選手に向かって跳ね上がると非常に危険なため、反則となります。
たとえ1位でゴールに飛び込んでも、この動作が「危険な蹴り出し」と判断されれば失格です。かつては足を伸ばすこと自体は許されていましたが、選手の安全性を考慮して近年ルールが厳格化されました。現在のトップ選手は、足を氷につけたまま滑り込ませる技術を磨いています。
この反則は、特に0.001秒を争う接戦で起こりやすいです。興奮のあまり、無意識に足を蹴り出してしまう選手もいますが、審判は安全性を最優先して厳しいジャッジを下します。観戦する際は、ゴール後の足元にも注目してみてください。
チームメイト以外の助けはNG?「アシスタンス」
「アシスタンス(Assistance)」とは、競技中に他の選手の助けを借りる、あるいは他の選手を助ける行為です。基本的にショートトラックは個人の実力を競うものなので、外部からの手助けや、他の選手を利用して有利になることは禁止されています。
例えば、リレー競技以外で他の選手に背中を押してもらって加速するような行為がこれに当たります。また、周回遅れになった選手が、わざとトップ争いをしている選手の風除けになったり、ライバルをブロックしたりする行為も、アシスタンスの一種として厳しく取り締まられます。
このルールがあることで、純粋な個人の走力と戦術による勝負が守られています。どんなにチームワークが良くても、レース中は自分一人の力で滑り切らなければならないのが、ショートトラックのフェアプレーの精神です。
スタート時のミス「フライング」と警告
スタートはレースの行方を左右する重要なポイントです。スターターの号砲が鳴る前に体が動いてしまうと「フライング」となります。ショートトラックでは、1つのレースで同一選手が2回フライングをすると失格になります。
面白いのは、誰か一人がフライングをした際、その選手個人に対してではなく、そのレース全体に対して最初の警告が出ることもあります。しかし、現在の国際ルールでは、個人の責任を明確にすることが一般的です。
また、スタート位置になかなか着かない、姿勢を安定させないなど、スタートを故意に遅らせる行為も「遅延行為」として警告の対象となります。緊迫したスタートライン上では、コンマ数秒をめぐる静かな心理戦が繰り広げられているのです。
フィニッシュ時に体を投げ出してゴールする「ダイビング」も、状況によっては危険行為とみなされることがあります。あくまで「安全に、コントロールされた状態」でゴールすることが基本です。
重い処分となるイエローカードが提示される基準

通常のペナルティ(失格)よりも重い「イエローカード」。これが出されるときには、審判団による明確な基準が存在します。どのような場合にカードが提示されるのかを詳しく見ていきましょう。
「安全ではない」と判断される危険な行為
イエローカードが提示される最大の理由は、その反則が単なる妨害を超えて「非常に危険である」と判断された場合です。例えば、転倒した選手がいる場所へ故意に突っ込んだり、刃を高く上げて相手を傷つけかねない動きをしたりするケースが挙げられます。
ショートトラックは狭い空間で刃物を扱う競技ですから、リスペクトを欠いた危険なプレーには断固とした処置が取られます。たとえ故意ではなくても、あまりに無謀な突っ込み(アグレッシブすぎるプレー)によって複数の選手を巻き込む大事故を引き起こした場合、カードが出ることがあります。
審判は「その行為が他の選手の安全を脅かしたか」を基準にします。この判定を受けると、その種目のすべてのポイントが没収されるため、オリンピックなどの大きな大会ではメダル獲得の可能性が一瞬で消え去る、極めて重いペナルティとなります。
同じレースで2回以上の反則を犯した場合
意外と知られていない基準が、同一レース内での累積です。具体的には、一つのレースの中で、インピーディングやキッキング・アウトなどの反則を2回以上犯したとみなされると、通常のペナルティではなくイエローカードが提示されます。
例えば、追い越しの際に一度相手を押し(プッシング)、さらにゴール直前で危険な足の出し方(キッキング・アウト)をした場合などが該当します。一回の違反ならそのレースの失格で済みますが、複数回の違反は「競技ルールの著しい軽視」と捉えられるのです。
選手は一つ一つの動作に責任を持たなければなりません。激しいレース展開の中でも、冷静さを失わずにルールを遵守し続ける精神力が、イエローカードを避けるためには不可欠です。
イエローカード2枚で「レッドカード」への格上げ
一つの大会期間中に、イエローカードを2枚受けてしまった選手には、自動的に「レッドカード」が突きつけられます。これはサッカーの累積退場と同じような仕組みですが、ショートトラックの場合はさらに厳しい結果が待っています。
レッドカードを受けた選手は、その時点で大会から完全に追放されます。その大会ですでに出場し終えた他の種目の記録もすべて抹消され、最終順位のリストからも名前が消えてしまいます。つまり、その大会に「参加していなかった」のと同等の扱いになるのです。
これはアスリートにとって最大の不名誉であり、最も避けるべき事態です。一度イエローカードをもらった選手は、次の種目では極めてクリーンな滑りを意識せざるを得ません。審判の目はより厳しくなり、観客もその選手の動向に注目することになります。
審判はどう見ている?ビデオ判定と救済措置(アドバンス)

ショートトラックの判定は非常に複雑ですが、現在はテクノロジーの進化によって公平性が保たれています。ここでは、ビデオ判定の裏側と、被害を受けた選手を救う特別なルールについて解説します。
死角なし!ビデオ審判(VAR)の仕組み
現在の国際大会では、複数の角度から撮影された高精細な映像を用いたビデオ判定システムが導入されています。リンクの周囲や天井など、あらゆる場所に配置されたカメラが選手の動きを逃さず記録しており、主審(レフェリー)はレース直後にモニターで何度も確認を行います。
かつては審判の肉眼に頼っていたため、見落としや誤審が問題になることもありました。しかし現在では、ビデオ審判(アシスタント・レフェリー)が専門的に映像を分析し、主審にアドバイスを送ります。選手の指先の動き、刃のわずかな接触までチェックされるため、ごまかしは一切通用しません。
判定を待つ間、会場にはリプレイ映像が流されることもあり、観客も一緒に「今のは反則だったのか?」と考えることができます。判定の透明性が高まったことで、スポーツとしての信頼性も大きく向上しました。
不運な選手を救う「アドバンス」という制度
ショートトラック特有の素晴らしいルールに「アドバンス(Advanced)」があります。これは、他の選手から反則を受けたことで転倒したり、大きく順位を下げたりした選手が、審判の判断によって上のラウンドに勝ち上がれる制度です。
例えば、準決勝で2位以内に入れば決勝に進めるという状況で、後ろから衝突されて転倒してしまったとします。その場合、衝突した選手にはペナルティが科され、被害を受けた選手は「アドバンス」として決勝に進む権利が与えられることがあります。
ただし、アドバンスが認められるには、その事故が起きた時点で「勝ち上がれる順位にいたこと」や「本人に非がないこと」などの条件があります。不運なアクシデントによって実力のある選手が消えてしまうのを防ぐ、非常にフェアな救済措置と言えるでしょう。
リレー競技特有の反則と判定のポイント
リレー競技は個人種目以上に複雑です。選手が入り乱れるため、交代時の「タッチ」が正確に行われたか、滑走していない選手が相手チームの邪魔をしていないかが厳しくチェックされます。特に交代する選手と、滑り終えた選手の進路交錯は反則になりやすいポイントです。
滑り終えた選手は速やかにコースの外に出なければなりませんが、疲労困憊の状態でフラフラと滑り続けてしまい、他チームの妨害をしてしまうことがあります。これが意図的であるかどうかに関わらず、妨害とみなされればチーム全体が失格になります。
リレーでの失格は、4人の努力がすべて無駄になってしまうため、個人種目以上の連帯責任の重さがあります。交代のタイミングや、滑走後のスムーズな離脱など、走力以外のチームワークが勝敗と判定を分ける鍵となります。
| 用語 | 意味 | 結果 |
|---|---|---|
| PEN (Penalty) | 通常の失格 | そのレースの順位・記録が消える |
| YC (Yellow Card) | 重大な反則・累積 | その種目の全記録が消える |
| RC (Red Card) | 極めて悪質な違反 | 大会から除外、全記録が消える |
| ADV (Advanced) | 救済措置 | 被害を受けた選手が次ラウンドへ進む |
まとめ:ショートトラックの反則と種類を覚えて観戦を楽しもう
ショートトラックは、スピードとテクニックだけでなく、ルールに基づいた駆け引きを楽しむスポーツです。反則の種類やイエローカードの重みを知ることで、なぜ選手があのようなコース取りをするのか、なぜゴール後にあんなに慎重になるのかが理解できるようになったのではないでしょうか。
今回解説したポイントを振り返ってみましょう。まず、進路を塞ぐ「インピーディング」や、手で押す「プッシング」は、激しい順位争いの中で最も注意すべき反則です。また、フィニッシュ時の「キッキング・アウト」のように、選手の安全を守るための厳格なルールも存在します。
特に「イエローカード」は、種目の全記録が消えるという非常に厳しい罰則であり、それが2枚重なると大会追放の「レッドカード」へと繋がります。一方で、被害を受けた選手を救う「アドバンス」のような温かい制度もあり、ショートトラックのルールは非常にバランスが取れています。
次にウィンタースポーツの中継を見る際は、ぜひ審判の判定や選手の足元、そしてレース後の「PEN」や「ADV」の表示に注目してみてください。ルールの裏側にある戦略を知れば、ショートトラック観戦がこれまでの何倍も熱く、興味深いものになるはずです。


