冬季スポーツの華ともいえるモーグルは、激しくコブを攻めるスピード感と、空中で繰り出される華やかなジャンプが魅力の競技です。しかし、滑り終わった後のスコアを見て「なぜ今の選手がこの点数なの?」と疑問に感じたことはないでしょうか。
モーグルの勝敗を左右するのは、あらかじめ決められた「採点比率」に基づいた厳密な評価です。ターン、エア、スピードという3つの要素が、それぞれ異なる重みを持って計算されます。この仕組みを知ることで、選手の滑りのどこに注目すべきかが明確になります。
この記事では、モーグルの基本となる採点比率の解説から、審判がどこを見ているのかという詳細なポイントまで、初心者の方にも分かりやすくお伝えします。ルールへの理解を深めて、テレビや現地での観戦をさらに熱いものにしていきましょう。
モーグルのターン・エアの採点比率と基本の配点

モーグルの得点は、合計100点満点で算出されます。この100点の内訳は、競技の特性に合わせて3つのカテゴリーに分かれています。まずは、それぞれの要素が全体の中でどれだけの重みを持っているのか、基本的な採点比率を確認していきましょう。
モーグルの得点配分(100点満点の場合)
・ターンの質:60%(最大60点)
・エアの技:20%(最大20点)
・スピード:20%(最大20点)
得点の60%を占めるターンの重要性
モーグルにおいて最も重要視されるのが「ターン」です。全体の60%という圧倒的な採点比率を占めており、たとえジャンプが素晴らしくても、ターンが乱れてしまえば上位に食い込むことは難しくなります。審判は選手がいかに正確にコブを捉えているかを厳しくチェックします。
具体的には、複数の審判がそれぞれターンの質を評価し、その点数を合計して算出します。減点法に近い考え方が採用されており、コブに弾かれたり、スキー板の形が乱れたりするたびにスコアが削られていきます。いかにミスなく最後まで滑り切るかが、高得点の最大のポイントとなります。
選手が膝を柔らかく使ってコブの衝撃を吸収する「吸収動作」や、上半身が全く揺れない安定感は、このターン点に直結します。観戦する際は、スキー板の動きだけでなく、頭の位置が上下左右にブレていないか注目してみると、採点の良し悪しが見えてくるようになります。
難易度と完成度が問われるエアの20%
コースの途中に2箇所設置されたジャンプ台で行われるのが「エア」です。このエアの採点比率は全体の20%となっており、1回のジャンプにつき10%ずつの配点となります。短い時間の中で繰り出される空中技は、モーグルの最も華やかな見せ場と言えるでしょう。
エアの得点は、技の種類に応じた「難易度(DD)」と、その技をいかに美しく決めたかという「出来栄え」を掛け合わせて算出されます。つまり、難しい技に挑戦するだけでなく、それをどれだけ完璧にこなすかが重要です。グラブ(板を掴む動作)の深さなども評価の対象になります。
また、着地した後のスムーズなターンの再開も、エアの評価に影響を与えます。着地でバランスを崩すとエアの点数が下がるだけでなく、その後のターンの質にも響くため、非常に緊張感のあるセクションです。回転数や姿勢の美しさに注目して、選手ごとの個性を楽しんでください。
タイムが勝敗を分けるスピードの20%
最後の20%を占めるのが「スピード」です。これは審判の主観による採点ではなく、あらかじめ設定された「ペースタイム」という基準値をもとに計算されます。コースの距離に対して設定された理想的なタイムよりも早くゴールすれば、それだけ高い得点を得られる仕組みです。
スピードの得点は自動的に算出されるため、非常に客観的な要素といえます。しかし、単に早く滑れば良いというわけではありません。スピードを出しすぎるとターンの制御が難しくなり、結果としてターン点が大幅に削られてしまうというリスクを常に抱えているからです。
現代のモーグルでは、スピードを維持しながらいかに正確なターンを刻むかという、極限のバランスが求められています。トップ選手たちは、時速30キロから40キロ近いスピードでコブを駆け抜けていきます。その速さと正確さの両立こそが、モーグルという競技の真髄なのです。
ターン技術の評価ポイントと減点の仕組み

採点比率の大部分を占めるターンは、どのような動きが高評価に繋がり、どのような動きが減点されてしまうのでしょうか。モーグルのターンには、ただコブを滑り降りるだけではない、高度な技術が集約されています。ここでは審判が見ている細かな基準を解説します。
ターンの評価ポイント:
・フォールライン(最大傾斜線)を直滑降に近い形で進んでいるか
・スキーのトップが常に雪面に接し、コントロールされているか
・上体が静止したように安定しているか
正確なライン取りとフォールラインへの意識
モーグルの理想的な滑り方は、斜面を真っ直ぐ最短距離で滑り降りる「フォールライン」を意識したものです。コブの横を大きく回るような滑り方は、安定感は増しますが、積極性に欠けると判断され減点の対象になります。直線的なラインを攻める姿勢が高評価に繋がります。
審判は、スキー板が常にフォールラインの方向を向いているかをチェックしています。板が横を向きすぎると「スピードを殺している」と見なされ、得点が伸びません。また、コブの裏側をしっかり使って、リズム良く左右に板を振る動作の正確さも、非常に重要な評価要素です。
トップ選手は、まるで磁石に吸い寄せられるように、コースの真ん中を一直線に突き進みます。このライン取りが乱れると、その後の滑り全体がギクシャクしてしまいます。コブという障害物がありながら、いかに真っ直ぐ最短ルートを通れるかが、技術の見せ所となります。
吸収動作と身体の安定感
モーグルのコブは、時に腰の高さほどになることもあります。その衝撃をまともに受けては、到底滑り続けることはできません。そこで重要になるのが、膝を胸のあたりまで素早く引き上げる「吸収動作」です。この動きが滑らかであればあるほど、高い評価を得ることができます。
優れた選手は、膝をサスペンションのように使い、どんなに深いコブでも頭の位置を変えずに滑り抜けます。上半身が上下に激しく動いてしまうのは、衝撃をうまく吸収できていない証拠であり、大きな減点ポイントとなります。腕の構えが崩れるのも、安定感を欠くと判断されます。
また、ターンの最中に上半身が左右に回ってしまう「ローテーション」も減点の対象です。胸を常にゴールの方向(正面)に向けたまま、下半身だけを激しく動かす独立した動作が求められます。この「静と動」の対比が、モーグルの美しさの一つの基準となっているのです。
カービング技術による雪面へのコンタクト
以前のモーグルは板を横にスライドさせて滑るスタイルが主流でしたが、現在は「カービング」という技術が必須となっています。これは、スキー板ののエッジ(縁の金属部分)を雪面に食い込ませて、雪を削るようにターンする手法です。これにより、より力強く速い滑りが可能になります。
審判は、スキー板のトップ(先端)が常に雪面に触れているか、また板がバタバタと跳ねていないかを厳しく見ています。板が雪面から浮いてしまうと、それだけコントロールを失っていると判断され、減点されます。常に雪面とコンタクトを取り続ける密着感が高得点の鍵となります。
雪煙が真後ろにシュッと美しく上がる滑りは、エッジがしっかり効いている証拠です。逆に、雪を横に押し出すような滑りは「スキッディング(横滑り)」と呼ばれ、現代のモーグルでは評価が低くなる傾向にあります。力強いエッジングが生み出す鋭いターンに、ぜひ注目してみてください。
エアの採点基準と難易度(DD)の計算方法

採点比率20%のエアセクションは、一瞬の出来事で勝負が決まる緊張感あふれる場面です。エアの点数は単なる印象ではなく、非常に細かい計算式によって算出されています。ここでは、ジャンプの種類や姿勢、そして着地における評価基準を詳しく紐解いていきましょう。
ジャンプの高さと飛距離の評価
エアの採点において、まず基本となるのが「高さ」と「飛距離」です。ジャンプ台(キッカー)を蹴り上げる瞬間のパワーが重要で、高く遠くへ飛ぶほどダイナミックな印象を与え、加点要素となります。空中に滞在する時間が長ければ、その分、複雑な技を披露する余裕も生まれます。
しかし、単に遠くへ飛べば良いというわけではありません。モーグルのコースには、エアの後に再びコブのセクションが待っています。あまりに遠くへ飛びすぎると、着地後のコブへの進入が難しくなり、ターンの失敗を招くリスクがあります。適切な範囲内で、最大限の高さを見せることが理想です。
選手たちは、時速30キロ以上のスピードを維持したまま、正確なタイミングでジャンプ台を蹴り出します。空中に舞い上がった瞬間のシルエットが美しく、頂点に達するまでの放物線が綺麗であるほど、審判からの評価は高まります。その瞬間の爆発力を感じ取ってみてください。
空中姿勢の美しさとグラブの完成度
空中にいる間の姿勢は「クオリティ(質)」として評価されます。足をしっかり揃えているか、あるいは技として足を広げる際の形が左右対称かといった点がチェックされます。現代のモーグルでは、空中で板を掴む「グラブ」や、身体をひねる「ツイスト」などが組み合わされます。
特にグラブ技では、どの部分を掴んでいるか、そしてどれだけ長く保持しているかが重要です。一瞬だけ触れるような「チープグラブ」は評価が低く、しっかりと板を掴み切ることで完成度が高いと見なされます。また、空中で軸がブレずに回転しているかどうかも、大きな見どころとなります。
技の種類には、後方に1回転する「バックフル」や、3回ひねる「コーク1080」など、非常に難易度の高いものがあります。これらの技を完璧な姿勢でこなすと、出来栄え点(クオリティ)が高くなり、結果として大きな得点源となります。選手の空中の形をスロー映像などで確認するのも楽しみ方の一つです。
着地の安定性とスムーズなターンへの移行
ジャンプの締めくくりである「着地(ランディング)」は、非常に重要な評価ポイントです。どんなに素晴らしい空中技を披露しても、着地で手を雪面についたり、大きくバランスを崩したりすれば、大幅な減点を免れません。ピタッと止まるのではなく、そのまま滑り続ける流動性が求められます。
理想的な着地は、着地した瞬間にすぐさま次のコブへのターンを開始できる状態です。着地時にスキー板がフォールラインを向いており、膝を深く曲げて衝撃を逃がしつつ、スムーズに1個目のコブに入っていく動作が最も高く評価されます。この「移行の美しさ」こそが、技術の差が出やすい部分です。
着地で板がクロスしてしまったり、後傾(後ろに体重がかかりすぎること)になったりすると、その後の滑りに悪影響を与えます。エアの採点範囲は着地後の数ターン分まで含まれていると言われており、選手はジャンプが終わるまで気を抜くことができません。着地の瞬間の足元にも注目です。
スピード得点の算出方法と勝負の分かれ目

モーグルにおいてスピードは20%の採点比率を持ちますが、これは人間の目ではなく「時計」によって決まるシビアな世界です。しかし、ただ単に「一番早い人が20点」という単純なものではありません。ここでは、少し複雑なスピード得点の計算の裏側を解説します。
| 要素 | 算出方法の概要 |
|---|---|
| ペースタイム | コース長に応じた男子・女子それぞれの基準タイム |
| タイム点 | 基準タイムより早いほど加点され、遅いほど減点される |
| 最高得点 | 満点は20点、どれだけ早くても20点以上にはならない |
基準タイムと自分のタイムの比較
スピードの点数は、FIS(国際スキー・スノーボード連盟)が決めた公式によって算出されます。まず、コースの全長をもとに、男子であれば秒速10.3メートル、女子であれば秒速8.8メートルといった「ペースタイム」が設定されます。これが、得点の基準となる100%のタイムです。
選手の実測タイムがこのペースタイムと同じであれば、スピード点は基礎点(約14〜16点前後)となります。ここから1秒早くなるごとに点数が加算され、逆に遅くなれば減点されます。どんなに早くても20点満点を超えることはありませんが、コンマ数秒の差が順位を入れ替えることになります。
タイム点は数学的に計算されるため、審判の感情が入り込む余地はありません。そのため、ターンやエアで点数が拮抗している場合、最終的な勝敗はこのスピード点で決まることが多いのです。選手がゴールした瞬間に表示されるタイムと、その横に示されるスピード点に注目してみてください。
スピードを維持するための技術
トップ選手が基準タイムを大幅に上回る速さで滑れるのは、単に恐怖心がないからではありません。彼らはコブの反発を推進力に変える技術を持っています。コブの裏側の斜面を利用して、板を下に押し出すように加速させることで、失速を防ぎながら驚異的なスピードを生み出します。
一方で、スピードを出すと遠心力や衝撃も大きくなります。これに耐えるための強靭な筋力と、瞬時に状況を判断する反射神経が必要です。特にコース終盤の第2エアが終わった後の「ランアウト」と呼ばれる区間では、最後までスピードを落とさずに駆け抜ける粘りが求められます。
また、ワックスの選択やスキー板の手入れといった、マテリアル(道具)の調整もスピードに直結します。雪質や気温に合わせて最適な状態に仕上げるスタッフの努力も、この20%のスピード点に隠されています。滑りの後半になっても速度が落ちない選手は、高い技術と準備が備わっている証拠です。
ターンとスピードの絶妙なバランス
モーグルの最も難しい点は「速く滑ればターンが乱れ、丁寧に滑ればスピードが落ちる」という矛盾にあります。採点比率でいえばターンが60%、スピードが20%ですから、多くの選手はターンを優先したくなります。しかし、現代のトップレベルでは、どちらかを捨てる選択肢はありません。
スピードを極限まで高めた状態で、なおかつ審判から「美しい」と評されるターンを刻み続けること。これこそが、メダリストに求められる絶対条件です。もし選手が途中で大きく体勢を崩した場合、それは自身の技術の限界を超えたスピードを出してしまった結果といえるかもしれません。
観戦中に「この選手、さっきの人より明らかに早いな」と感じたとき、その選手が同時にターンの安定感も維持できているか確認してみてください。もし両立できていれば、それは高得点が期待できる「異次元の滑り」です。比率を超えたトータルバランスの美しさが、モーグルの醍醐味です。
デュアルモーグルの形式と採点の違い

モーグルには、1人ずつ滑って得点を競う「モーグル(シングル)」のほかに、2人が同時に滑って勝ち残りを決める「デュアルモーグル」という種目があります。基本の採点比率の考え方は同じですが、評価の方法がより対決色を強めたものに変化します。その違いを見ていきましょう。
デュアルモーグルの特徴
・2人の選手が隣り合ったコースを同時に滑る
・トーナメント形式で勝者が次のラウンドへ進む
・審判は2人を直接比較してポイントを割り振る
1対1のトーナメント形式の魅力
シングルモーグルが「自分自身との戦い」であるのに対し、デュアルモーグルは「相手を意識した駆け引き」が重要になります。隣で相手が滑っているのが見えるため、焦りからミスを誘発したり、逆に相手に遅れをとっていると見てエアの難易度を急遽上げたりといったドラマが生まれます。
ファンにとっての最大の魅力は、その分かりやすさです。先にゴールした方がスピードで勝っていることは一目瞭然ですし、ジャンプの高さも直接比較できます。採点結果が出る前に、観客も「今の滑りはこっちの勝ちだろう」と予想しやすく、会場の一体感が高まりやすい競技形式です。
しかし、見た目の速さだけで勝敗が決まらないのがモーグルの奥深さです。先にゴールした選手が、実はターンのミスを連発していたために、後からゴールした選手に判定で負けるというケースも少なくありません。最後までどちらが勝つか分からないワクワク感が、この種目の特徴です。
5人の審判による比較採点システム
デュアルモーグルでは、通常5人の審判が判定を行います。シングルモーグルのように100点満点で点数を出すのではなく、2人の滑りを比較して、どちらが優れていたかを判定します。以前は5人の審判が各5ポイントずつ計25ポイントを持ち、それを2人に配分する方式が一般的でした。
最新の国際ルールでは、役割分担がより明確になっています。5人の審判のうち、3人が「ターン」、1人が「エア」、1人が「スピード」を担当します。それぞれの審判が担当項目について、どちらの選手が良かったかを判定し、その合計支持数によって勝敗が決まるシステムです。
例えば、スピードで負けていても、ターンを担当する3人の審判が全員「青の選手の方がターンの質が高い」と判断すれば、その時点で青の選手の勝利となる可能性があります。採点比率の概念を維持しつつ、対人戦に適した形にカスタマイズされた評価方法と言えるでしょう。
プレッシャーの中で求められる安定感
デュアルモーグルでは、短時間に何度も滑る体力が求められます。勝ち進むほどにコースは荒れていき、選手の疲労も蓄積します。その過酷な条件下で、隣に並ぶライバルのプレッシャーに打ち勝ち、高い採点比率を持つターンを維持し続けるのは至難の業です。
特に、相手が視界に入ると、ついスピードを出しすぎてしまいがちです。しかし、そこで無理をして転倒してしまえば、どれだけ先行していても負けが確定してしまいます。自分の滑りを貫く精神的な強さと、相手の状況を見て戦略を変える冷静さの両方が、勝利には不可欠です。
トップ選手同士の対決では、まさに紙一重の勝負が繰り広げられます。ターンの精度、エアの迫力、スピードのキレ。これらすべてがシンクロするようにぶつかり合うデュアルモーグルは、格闘技のような熱量を感じさせてくれます。ルールを知ることで、その攻防はさらに面白くなります。
まとめ:モーグルの採点比率を理解して観戦をより深く楽しむ
モーグルの勝敗を決める採点比率は、ターン60%、エア20%、スピード20%という絶妙なバランスで成り立っています。この数字を頭に入れておくだけで、今までなんとなく眺めていた滑りの見え方が大きく変わってくるはずです。いかにターンの技術が競技の根幹を支えているかが分かります。
得点の大部分を占めるターンでは、正確なライン取りと身体の安定感が問われます。一方、20%ずつのエアとスピードは、競技に華やかさと緊張感を与える重要なエッセンスです。選手たちは、この3つの要素を高い次元で融合させるために、日々血の滲むようなトレーニングを積んでいます。
特に、スピードを出せばターンが乱れるという「二律背反」の状況に、選手たちがどう立ち向かっているかに注目してみてください。ミスを恐れずに攻める姿勢や、土壇場でのリカバリーなど、採点基準の裏側にあるドラマを感じ取ることが、モーグル観戦の本当の楽しみと言えるでしょう。
これから冬季シーズンが本格化し、テレビでの中継も増えていきます。次にモーグルを観る時は、ぜひ「ターンは綺麗かな?」「エアの着地はどうだった?」と、審判になった気分でチェックしてみてください。ルールへの理解が深まれば、選手の凄さがより鮮明に伝わってくるはずです。



