カーリングのミックスダブルス戦術の違いを解説します。4人制のカーリングはテレビなどでよく見かけますが、男女ペアで戦うミックスダブルスはまだ新しい種目ということもあり、ルールの違いに驚く方も多いのではないでしょうか。2人という少人数でプレーするため、1投の重みが非常に大きく、スピーディーな展開が特徴です。
この記事では、冬季スポーツの観戦をより深く楽しむために、ミックスダブルス特有の戦術や4人制との細かな違いをわかりやすくお伝えします。石の配置や「パワープレー」と呼ばれる特殊なルールを知ることで、これまで以上に試合を面白く感じられるはずです。基本から応用まで、丁寧に紐解いていきましょう。
カーリングのミックスダブルス戦術と4人制の大きな違い

ミックスダブルスは、男女1名ずつのペアで構成される点が最大の特徴です。4人制とは異なるルールが数多く存在し、それによって生まれる戦術も全く別物といっても過言ではありません。まずは、基本的な人数の違いが試合の展開にどのような影響を与えるのかを整理してみましょう。
チーム編成と役割分担のシンプルさ
ミックスダブルスは男女1名ずつの2人でチームを組みます。4人制ではリード、セカンド、サード、スキップという明確な役割がありますが、2人制では1人が投げ、もう1人が指示を出しながらスウィープ(ブラシで氷をこすること)を行うのが基本です。役割が固定されない場面も多く、2人の連携が非常に重要になります。
投球順序も独特で、1投目と5投目を同じ選手が投げ、2・3・4投目をもう1人の選手が投げます。誰がどの順番を担当するかはエンド(野球のイニングのような区切り)ごとに変更できるため、その日の調子や得意なショットに合わせて柔軟に戦略を立てられるのが2人制の面白いポイントです。
投球者が投げた後、すぐに自ら走ってスウィープに加わることも珍しくありません。4人制に比べて1人あたりの運動量が非常に多く、体力的にもハードな種目といえます。2人しかいないからこそ、お互いの信頼関係や、瞬時の判断を共有するスピード感が勝敗を左右する重要な要素となります。
試合時間の短さとエンド数の少なさ
4人制の試合は通常10エンド、あるいは8エンドで行われますが、ミックスダブルスは8エンド制が採用されています。また、1チームが投じる石の数は4人制が8個なのに対し、ミックスダブルスはわずか5個です。投球数が少ないため、1投のミスが致命傷になりやすく、常に緊張感のある展開が続きます。
試合時間が短縮されていることも、観戦する側にとっては大きな魅力です。1試合が約1時間半程度で終わるため、最後まで集中して観戦しやすくなっています。展開が非常に早いため、少し目を離した隙に大量得点が入っていたり、大逆転が起きていたりすることもミックスダブルスでは珍しくありません。
短い時間の中でいかに効率よく得点を重ねるかが問われます。石の数が少ないからこそ、1つひとつの石の配置に込められた意図が明確になり、選手の狙いを読み解く楽しさがあります。4人制のようなじっくりとした駆け引きとはまた違った、爆発力のあるゲーム展開が楽しめるはずです。
投球数とプレースタイルの変化
各エンドで投げる石は5個ですが、実はエンド開始前にあらかじめ2個の石がリンク上に配置されています。そのため、実質的には7個の石をどう活用するかというパズルを解くような感覚です。4人制では何も石がない状態から始まりますが、ミックスダブルスはいきなりチャンスやピンチの状態でスタートします。
この初期配置があるおかげで、1投目からいきなりハウス(円)の中に石を溜める攻めの姿勢が求められます。4人制では序盤はガード(守りの石)を置くことが定石ですが、ミックスダブルスでは最初からクライマックスのような激しい攻防が繰り広げられます。このスピード感の違いが、戦術の大きな差を生んでいます。
プレースタイルとしても、よりアグレッシブなショットが好まれる傾向にあります。守りに入りすぎると逆に相手に大量得点を与えるリスクが高まるため、常に得点を狙いに行く姿勢が重要です。観客としても、派手なテイクアウト(相手の石を弾き出すショット)や精密なドロー(狙った場所に止めるショット)を数多く見ることができます。
試合開始時からストーンが置かれる独自ルール

ミックスダブルスの最も特徴的なルールは、エンドが始まる前に石が2個置かれていることです。これを「プレーストーン」と呼び、先攻と後攻で配置場所が決まっています。この初期配置があることで、4人制とは全く異なるゲームの組み立てが必要になります。
センターガードとハウス内の位置関係
通常、先攻チームの石は「センターガード(円の手前の中心線上)」に置かれ、後攻チームの石は「ハウス内(円の中)の後方」に置かれます。つまり、エンドが始まった瞬間、後攻チームはすでに得点圏内に石を持っている状態であり、先攻チームはそれを守るガードを持っている状態からスタートします。
この配置が、ミックスダブルスの戦術の土台となります。先攻チームは、センターにある自分のガードを利用して、後攻の石を邪魔しながら自分の石をハウス内に滑り込ませようとします。一方で後攻チームは、すでに有利な位置にある自分の石を守りつつ、さらなる加点を狙う動きを見せます。
最初から石が配置されているため、1投目から非常に緻密なショットが求められます。4人制のように「とりあえずガードを置く」という選択肢ではなく、「置かれているガードをどう活用するか」という視点が重要です。この初期状態が、ミックスダブルス特有の「石が溜まりやすい」状況を作り出しています。
【豆知識:プレーストーンの役割】
先攻の石:センターライン上に置かれ、相手の侵入を防ぐ盾の役割を果たします。
後攻の石:ハウス内の中心付近(ボタンの少し後ろ)に置かれ、最初から得点源となります。
後攻チームが選べる石の配置
ミックスダブルスでは、後攻チームがそのエンドの配置を選択できる権利を持っています。通常は前述した「センター」の配置を選びますが、特定の状況下では「パワープレー」という特殊な配置を選択することが可能です。これにより、後攻チームは戦術的な主導権を握ることができます。
センターに石がある場合、すべての攻防が中央に集中するため、非常に複雑な局面になりやすいです。後攻チームは、自分たちが点数を取りやすい形を常に考えながらプレーします。先攻チームは、後攻の有利をいかに最小限に抑えるか、あるいは逆転してスチール(先攻チームが得点すること)を狙うかを考えます。
このように、開始時点での有利・不利が明確であるからこそ、逆転した時のインパクトが大きくなります。配置が決まっていることで、選手の技術だけでなく、理論的な戦略の組み立てがより鮮明に見えてくるのがミックスダブルスの面白いところです。
先制点を守るか攻めるかの判断基準
試合の序盤でリードを奪った場合、その点差をどう守るかが重要です。しかし、ミックスダブルスでは石を減らして守り切る戦術が通用しにくい側面があります。なぜなら、石が中央に集まりやすいため、1つのミスで大量失点するリスクが常につきまとうからです。
点差がある場合でも、あえて積極的にハウスの中に石を溜めていき、相手に大きなチャンスを与えないようにプレッシャーをかけ続ける戦術が取られることが多いです。守りに入ってショットを弱気にすると、相手に有利な角度を作られてしまい、一気に逆転される原因になります。
判断の基準となるのは、常に「相手の石がどこにあるか」と「次に相手が何をしたいか」を予測することです。2人という少人数では、お互いの意思疎通が少しでもズレると致命的です。リードしていても攻めの姿勢を崩さない、強気の戦術こそがミックスダブルスの勝利への近道といえます。
ミックスダブルス独自の「パワープレー」活用法

ミックスダブルスを観戦していて、石の配置が突然サイドに変わる場面を見たことはありませんか?それが「パワープレー」と呼ばれる、この種目最大の戦術的見せ場です。1試合に一度(延長戦がある場合はさらにもう一度)だけ使えるこの権利は、試合の流れを大きく変える力を秘めています。
パワープレーを選択するタイミング
パワープレーは、後攻チームがエンドの開始前に宣言することで使用できます。通常は中央に置かれるプレーストーンを、左右どちらかの「サイド(ウィング)」に移動させるルールです。これにより、ハウスの中央が大きく開き、大量得点を狙いやすい状況が生まれます。
使用するタイミングとして最も多いのは、負けているチームが終盤に逆転を狙う場面です。また、同点の場面で一気にリードを広げたい時にも使われます。逆に、リードしているチームが安全に逃げ切るために、早めに消化してしまうという戦略もありますが、基本的には「勝負をかける時」の合図です。
観戦している側としても、「ここでパワープレーを使うか!」というワクワク感があります。選手の表情やコーチとの相談内容からも、その重要性が伝わってきます。残りのエンド数と現在の点差を考えながら、いつこの切り札を切るのかを見極めるのが、ミックスダブルスの醍醐味の一つです。
サイドに石を配置するメリット
パワープレーで石をサイドに置くと、ハウスの中央がガラ空きになります。これにより、ドローショット(石を置くショット)を通すルートが広がり、ハウス内に石を溜めやすくなります。4人制の「コーナーガード」を置いた時のような、攻めに適した形が最初から作られている状態です。
パワープレーの最大のメリットは、相手にセンターを塞がれにくくなることです。通常の配置では中央にガードがあるため、精密な技術が求められますが、パワープレーなら比較的自由にハウスを狙えます。これにより、後攻チームは複数得点(ビッグエンド)を獲得する確率が格段に上がります。
また、相手(先攻チーム)にとっても守りにくい配置となります。中央を隠す盾がないため、先にハウスの中心へ石を置いても、後から簡単に弾き出されてしまう可能性が高まります。この「攻撃側が圧倒的に有利な盤面」をいかに活かすかが、スキップの腕の見せ所となります。
パワープレー返しで守る側の対抗策
パワープレーを使われたからといって、先攻チームがただ指をくわえて見ているわけではありません。先攻側にも「パワープレー返し」とも呼べる対抗策が存在します。最も一般的なのは、空いている中央のルートを、自ら投じる1投目の石で再び塞いでしまう戦術です。
相手がサイドから攻めようとしているのに対し、あえて中央に新しいガードを置くことで、パワープレーの効果を半減させようと試みます。あるいは、ハウス内の良い位置に石をピタリと止め、相手に「弾き出さなければならない」というプレッシャーを与えることもあります。
パワープレーはあくまで「有利な配置」にするだけであり、ショットの精度が伴わなければ得点には結びつきません。守る側はいかに相手のミスを誘い、最少失点で切り抜けるかを考えます。攻撃側の猛攻をしのぎきり、逆に先攻が点数を奪う「スチール」に成功すれば、試合の勝敗はほぼ決まったと言っても過言ではありません。
投球順序とスウィーピングの戦略

ミックスダブルスでは、選手の役割が非常に流動的です。4人制のように「投げる人」「掃く人」「指示を出す人」が固定されていないため、戦術に応じてその場で最適な役割を選択する必要があります。ここでは、2人制ならではの動きの秘密に迫ります。
1投目と5投目を投げる選手の重要性
各エンドで投げる5個の石のうち、1投目と5投目を担当する選手と、2・3・4投目を担当する選手に分かれます。どちらがどちらを担当するかは自由ですが、一般的には「ラストストーン(5投目)に強い選手」が1・5投目を担当することが多いです。
5投目はそのエンドの最終的な得点を決める極めて重要な一投です。強い精神力と正確なコントロールが求められます。一方で、2・3・4投目を投げる選手は、連続して3回投げることで氷の状態(ウェイト感や曲がり具合)を掴みやすく、中盤の形作りにおいて重要な役割を担います。
ペアによって「男性が1・5投目、女性が2〜4投目」というパターンもあれば、その逆もあります。最近では、世界的なトップチームでも状況に応じて投球順を入れ替える戦略が取られており、どちらの選手もすべての役割をこなせるオールラウンダーであることが求められています。
スウィーパーが1人しかいない影響
4人制では最大2人でスウィープできますが、ミックスダブルスでは基本的に投球者以外の1人しかスウィープできません。これは非常に大きな違いです。1人では石を伸ばす力や曲がりを調整する力が半分になるため、投球者のショット自体の正確性がより厳しく問われます。
また、1人でのスウィープは体力的な消耗も激しいです。エンドが進むにつれて疲れが溜まり、スウィープの威力が落ちてくることも考慮しなければなりません。そのため、力強くこするだけでなく、どのタイミングでこすり始めるかという「効率的なスウィープ」の判断が重要になります。
スウィーパーが1人であることは、ライン(石の進む方向)の読みにも影響します。4人制なら2人のスウィーパーとスキップの3人で確認できますが、ミックスダブルスは実質的に2人での判断となります。短い時間で的確なコミュニケーションを取る必要があり、一瞬の迷いがミスに直結します。
投球者自身がスウィープに加わる判断
ミックスダブルスならではの光景として、石を投げた選手がそのまま立ち上がり、必死に石を追いかけてスウィープする姿があります。これは「少しでも石を伸ばしたい」「どうしてもハウスに入れたい」という時の緊急手段です。2人しかいないルールを最大限に活用した動きです。
投球者自身が加わることで、一時的に2人スウィープと同じ状態を作ることができます。ただし、投げた直後の不安定な姿勢から走り出すため、転倒のリスクや石に触れてしまうファウルのリスクも高まります。それでもなお自ら掃きに行くのは、それだけ1投の重要性が高いからです。
特に最後の1投などで、2人がかりで全力投球を支えるシーンは非常に見応えがあります。ペアの絆を感じる瞬間でもあり、観戦者にとっても熱が入るポイントです。投球者がいつ、どのタイミングで立ち上がるかにも注目してみると、選手の必死さや勝負どころがよくわかります。
ミックスダブルスでは、投げた後に自分で掃きに行く「セルフスウィープ」の技術も一流選手の条件となっています。投球後のバランス感覚が重要です。
勝敗を分けるモディファイド・フリーガードゾーン

カーリングには、リードが投げたガードストーンをすぐには弾き出してはいけない「フリーガードゾーン(FGZ)」というルールがあります。ミックスダブルスではこれがさらに強化された「モディファイド・フリーガードゾーン」が採用されており、これが戦術を非常に複雑にしています。
3投目までは相手の石を弾き出せない
ミックスダブルスでは、各エンドの「第3投目」が完了するまで、リンク上にある石(プレーストーンを含む)を弾き出すことが禁止されています。もし誤って弾き出してしまった場合は、石を元の位置に戻さなければなりません。これにより、序盤は必ず石がリンク上に溜まっていくことになります。
4人制のルール(5投目までガードを弾き出せない)と似ていますが、ミックスダブルスでは「ハウス内にある石」も弾き出してはいけないという点が大きく異なります。つまり、最初に置かれている後攻のハウス内の石を、先攻の1投目でいきなり弾き飛ばすことはできないのです。
このルールがあるため、試合は必ず「石を溜める展開」から始まります。弾き出せない以上、いかに自分の石を有利な場所に配置するか、あるいは相手の石を利用して自分の石を隠すかという、配置の妙が問われることになります。序盤の3投でどのような形を作るかが、そのエンドの命運を握ります。
序盤の石の溜まりやすさとガード利用
第3投目まで石を弾き出せないため、ハウス周辺には密集地帯ができあがります。この密集した石をどう「ガード」として使うかが戦術の肝です。例えば、ハウスの前にある複数の石の隙間を縫うようにして、中心に石を置く「フリーズ」という高度な技術が多用されます。
また、相手の石をあえてそのままにしておき、自分の石をその裏側に隠す「カムアラウンド」というショットも重要です。弾き出せない期間を有効に使い、相手から見えない・狙いにくい位置に自分の石を配置することで、第4投目以降のテイクアウト合戦を有利に進めることができます。
このように、序盤はまるでチェスや将棋のような、静かながらも熱い場所取り合戦が行われます。観戦時には「今はこの石は弾き出せないんだな」と理解して見ていると、選手がなぜそこに置こうとしたのかがより明確に伝わってくるはずです。
複数の石が絡み合う複雑な盤面管理
第4投目からはようやくテイクアウト(石を弾き出すこと)が可能になりますが、この時点でリンク上にはすでに多くの石が存在しています。1つの石を狙って投げたとしても、他の石に当たって予想外の動きをすることが多く、非常に複雑な盤面となります。
一つのショットで複数の石を動かす「マルチテイクアウト」が決まれば一気に局面が好転しますが、失敗すれば自分たちの石まで外に出してしまうリスクがあります。ミックスダブルスの後半戦は、この複雑な状況をどう整理し、自分たちの有利な形を維持するかの戦いです。
石が多いということは、それだけ「ナンバー1(中心に最も近い石)」が頻繁に入れ替わることを意味します。最後までどちらが得点するか分からないハラハラ感は、このモディファイド・フリーガードゾーンが生み出したミックスダブルスならではの魅力と言えるでしょう。盤面全体を使ったダイナミックな攻防に注目してください。
【用語解説:フリーズ】
すでにある石に、投じた石をぴったりとくっつけて止めるショットのこと。くっついているため、相手がその石だけを弾き出すのが非常に難しくなり、強力な守りとなります。
カーリングのミックスダブルス戦術の違いを理解して観戦を楽しむまとめ
カーリングのミックスダブルスは、4人制とは異なる独自のルールと戦術が凝縮された非常にエキサイティングなスポーツです。男女ペアという少人数だからこそのスピード感、そして1試合に一度の「パワープレー」がもたらす逆転劇は、観る人を飽きさせません。ここで紹介した戦術の違いを意識するだけで、観戦の解像度はぐっと高まるはずです。
特に、第3投目まで石を弾き出せないというルールが、盤面を複雑にし、ドラマチックな展開を生んでいる点に注目してみてください。選手たちが2人で必死にスウィープし、コミュニケーションを取りながら一投に全力を注ぐ姿は、ミックスダブルスならではの感動を与えてくれます。次の大会では、ぜひ石の配置や投球順の変化を楽しみながら、熱い声援を送ってみてください。



