ラストストーンドロー(LSD)の仕組みと後攻の決め方を分かりやすく解説

ラストストーンドロー(LSD)の仕組みと後攻の決め方を分かりやすく解説
ラストストーンドロー(LSD)の仕組みと後攻の決め方を分かりやすく解説
カーリング

カーリングの試合中継を見ていると、試合開始直前に選手が1投ずつストーンを投げているシーンを目にすることがあります。これは「ラストストーンドロー(LSD)」と呼ばれる非常に重要な儀式です。氷上のチェスとも呼ばれるカーリングにおいて、この1投が試合の行方を左右すると言っても過言ではありません。

このLSDは、主に試合の「後攻」を決めるために行われます。カーリングでは後攻が圧倒的に有利なため、どのチームもこのLSDで良い成績を出そうと集中します。本記事では、冬季スポーツ観戦がより楽しくなるように、LSDの仕組みや後攻が決まるプロセスについて、初心者の方にも分かりやすくお伝えします。

最後まで読んでいただければ、中継の冒頭に表示される数値の意味や、チームがなぜあんなに真剣に投げているのかが明確に理解できるようになります。ルールを知ることで、トップ選手たちの技術の凄さをより深く感じられるようになるでしょう。

ラストストーンドロー(LSD)の仕組みと基礎知識

カーリングの試合は、まずこの「ラストストーンドロー(LSD)」から始まります。なぜ試合が始まる前にストーンを投げる必要があるのでしょうか。ここでは、その基本的な定義と測定方法について詳しく見ていきましょう。

LSDとは何を指す言葉なのか

ラストストーンドロー、略してLSDとは、試合の直前に行われる「各チームが1投ずつストーンを投げ、ハウスの中心にどれだけ近づけられるかを競う」セレモニーのことです。この結果によって、第1エンドの「後攻(ハンマー)」をどちらのチームが取るかを決定します。

カーリングにおいて、最後の一投を投げられる後攻の権利は「ハンマー」と呼ばれ、スコアを獲得する上で非常に大きなアドバンテージとなります。そのため、試合前の練習時間(公式練習)の最後に、各チームの代表選手が魂を込めてこのLSDに挑むのです。

かつてはコイントスで後攻を決めていた時代もありましたが、現在は実力でその権利を勝ち取る仕組みが一般的になりました。運ではなく、その日の氷の状態をいかに早く掴んだかが問われる、技術的な勝負の場となっています。

距離を測るための精密な測定ルール

LSDで投げられたストーンは、ハウスの中心点(ティー)からどれだけ離れているかをミリ単位で測定します。測定には専用のレーザー計測器や精密なメジャーが使われ、その距離が記録されます。中心に近ければ近いほど、数値は小さくなり、成績が良いと判断されます。

もしストーンが中心にぴたりと止まれば、記録は「0.0cm」となります。逆に、ハウスの中に全く入らなかったり、ハウスを通り越してしまったりした場合は、最大距離として「199.6cm」という数値が記録されるのが一般的なルールです。この数値はハウスの外周の半径に基づいています。

観戦していると、審判がしゃがみ込んで機械を当てている姿が見えるはずです。あの瞬間、選手たちは固唾を呑んで結果を待っています。わずか数ミリの差で後攻の権利が入れ替わるため、非常にシビアな世界だと言えるでしょう。

2つの回転方向を投げ分ける理由

LSDは通常、2人の選手がそれぞれ1投ずつ行います。ここで面白いのが、「時計回り(クロックワイズ)」と「反時計回り(カウンタークロックワイズ)」の両方の回転を投げなければならないという点です。1投目が右回転なら、2投目は必ず左回転で行う決まりがあります。

これは、氷の曲がり方のクセを両方向で平等に把握するため、そして特定の回転だけが得意な選手に偏らないようにするためのルールです。2人の合計距離、あるいは平均距離を算出することで、そのチームの総合的なドローショット(狙った場所に止めるショット)の精度を測ります。

チーム内で誰がどちらの回転を投げるかは、事前に決められています。リードの選手が右、セカンドの選手が左といった具合に、戦略的に配置されます。この組み合わせもチームの個性が出るポイントですので、ぜひ注目してみてください。

カーリングで重要な後攻の決め方とハンマーの役割

LSDの目的は、第1エンドの後攻を決めることにあります。なぜカーリングにおいて「後攻」がそれほどまでに重要視されるのでしょうか。その戦略的なメリットと、権利が確定するまでの流れを整理します。

後攻(ハンマー)が持つ圧倒的な有利性

カーリングでは、最後に石を投げる権利を持つチームが圧倒的に有利です。これを「ハンマーを持っている」と表現します。相手が全ての石を投げ終わった後に、最後の一投で局面をひっくり返すことができるため、得点を得る確率が非常に高くなります。

逆に先攻のチームは、相手に得点させないように石を配置する「スチール」を狙わなければならず、守備的な戦いを強いられます。試合の序盤で後攻を取れるかどうかは、その試合の主導権を握るための第一歩なのです。

LSDで勝利したチームは、第1エンドで「後攻を取るか」「石の色を選ぶか」のどちらかの優先権を得ます。ほとんどのチームは迷わず「後攻」を選択します。それほどまでに、カーリングにおける攻撃のラストショットは価値が高いものなのです。

LSDの数値比較による勝敗の決定

2人の選手が投げたLSDの合計距離が、相手チームよりも短かったチームが勝利となります。例えば、Aチームが10cmと20cmで合計30cm、Bチームが5cmと30cmで合計35cmだった場合、合計値が小さいAチームが後攻の権利を獲得します。

もし合計距離が全く同じだった場合は、さらに細かいルールが適用されます。個別のベストスコアを比較したり、それでも決まらない場合はコイントスが行われたりすることもありますが、現代の精密な測定技術では数値に差が出ることがほとんどです。

この数値の発表は、試合開始の直前に電光掲示板や放送画面で行われます。選手たちが「ナイス!」と喜び合っていたり、少し悔しそうな顔をしていたりするのは、この後攻の権利が決まった瞬間であることが多いです。

後攻を決めるまでのステップ

1. 両チームが練習時間の最後に2投ずつLSDを行う。

2. 各投球の距離を審判がミリ単位で測定する。

3. 2投の合計距離が短い方のチームが「ハンマー」の選択権を得る。

4. 勝利チームが第1エンドの後攻を選択し、試合が開始される。

石の色選びと後攻の選択の関係

LSDで勝ったチームが「後攻」を選んだ場合、負けたチームには「石の色(赤か黄)」を選ぶ権利が与えられます。石の色自体に性能の差はありませんが、選手によっては「赤の方が見やすい」「黄色の方がイメージが良い」といった好みがある場合もあります。

稀なケースですが、氷の状態によって特定の色の石が走りやすいと感じた場合、LSDに勝ったチームがあえて石の色を優先して選び、後攻を譲るという戦略も理論上は存在します。しかし、現代のトップレベルの試合では、ほぼ100%の確率で後攻が選ばれます。

このように、LSDは単なる練習の延長ではなく、試合の一部として明確な報酬(ハンマーの権利)が設定されている真剣勝負なのです。観戦する際は、どちらのチームが赤い石で、どちらが後攻なのかをチェックすることから始めましょう。

LSDを投げる際の手順と細かいルール設定

LSDはただ投げるだけではなく、非常に厳格な手順とルールに基づいて行われます。テレビ中継ではカットされがちな部分ですが、ここを知っておくと中継の見方が変わります。具体的な投げ方のルールを確認しましょう。

制限時間内に行われる公式練習とLSD

各試合の前には、それぞれのチームに数分間の公式練習時間が与えられます。この練習時間の最後にLSDを行うのが通例です。選手たちは氷の滑り具合や曲がり幅を最終確認し、その感覚を忘れないうちにLSDの投球に入ります。

LSDを投げる際は、スイーパー(ブラシで掃く選手)も本番同様に参加します。投げる選手、指示を出す選手(スキップ)、そして掃く選手たちが一体となって、中心ぴたりに止める努力をします。この1投のための集中力は凄まじいものがあります。

もし制限時間内に投球が完了しなかった場合は、ペナルティとしてその投球は最大距離(199.6cm)として記録されてしまいます。そのため、練習の終わり際になるとチームは急いで準備を整え、スムーズな投球を心がけます。

スウィーピングの有無と有効性

LSDでも通常の試合と同じく、スウィーピング(氷を掃くこと)が認められています。むしろ、LSDこそスウィーピングの技術が最も試される場面の一つと言えます。石が止まりそうな位置を正確に予測し、中心に近づけるために必死に掃き上げます。

特に石がゆっくりになった終盤の数センチの伸びは、スイーパーの腕にかかっています。選手たちは「あと1センチ伸ばして!」といった声を掛け合い、コンマ単位の距離を削り出します。この様子は、まさにチームワークの結晶です。

ただし、投球者が石を離した後に一度止まった石を動かしたり、掃く際に石に触れてしまったりした場合は、そのショットは無効となり、最大距離が記録されるという厳しいルールもあります。緊張感漂う中での精密な作業が求められます。

LSDの豆知識:ハウスを越えてしまったら?

もし投げたストーンが強すぎて、ハウスの後方を突き抜けてしまった場合は「199.6cm」という最大値がつきます。これは「ハウスの中に石がない」状態と同じ扱いです。そのため、少し弱めに投げて手前で止める方が、最悪の結果を避けられるという考え方もあります。

投球順序と相手チームの状況

LSDは通常、各チームがそれぞれの練習時間の最後に行うため、相手チームが投げているのを直接見ることはあまりありません。しかし、大会によっては交互に投げる形式もあり、その場合は相手のプレッシャーを感じながら投げることになります。

先に行われたチームが良い数値(例えば2cmなど)を出した場合、後から投げるチームは「ほぼ中心に入れないと勝てない」という状況に追い込まれます。逆に相手がハウスを外していれば、安全にハウスに入れるだけで勝利が確定します。

このようにLSDは、単なるドローの精度だけでなく、プレッシャーに打ち勝つ精神力も試される場なのです。五輪などの大舞台では、この1投で手が震えることもあると言われるほど、選手にとっては重みのある投球となります。

大会全体の順位を左右するDSC(ドローショットチャレンジ)

LSDは毎試合行われますが、その数値は単にその試合の後攻を決めるためだけに使われるのではありません。大会期間中全てのLSDの結果を蓄積した「DSC」という指標が、実は最終順位に大きな影響を及ぼします。

DSC(ドローショットチャレンジ)の定義

DSCとは「Draw Shot Challenge」の略で、大会中の各試合で行ったLSDの平均距離のことです。予選(リーグ戦)が終了した時点で、勝ち星が並んだチーム同士の順位を決定するための「タイブレーク」の代わりとして使用されます。

例えば、予選で3チームが5勝2敗で並んだとします。直接対決の結果でも順位がつかない場合、このDSCの数値が小さいチーム(つまりLSDでより中心に寄せていたチーム)が上位として扱われます。これが五輪の決勝トーナメント進出を左右することもあります。

勝ち負けだけでなく、毎試合のLSDをどれだけ丁寧に行っていたかが、大会終盤に大きな「貯金」となって返ってくる仕組みです。世界レベルの大会では、このDSCの数ミリの差でメダルの可能性が消えることもあるほど、重要なシステムです。

最悪の結果を除外する計算の仕組み

DSCを算出する際、全てのLSDの結果を単純に足すわけではありません。多くの場合、チームが投げた全てのLSDのうち、成績の悪かった数投(通常はワースト2投など)を除外して平均を出します。これは、1回の大失敗が全てを台無しにしないための救済措置です。

例えば10試合戦った場合、合計20投のLSDが行われます。そのうち、ハウスを大きく外してしまった2回分をカットし、残りの18投の平均値がそのチームのDSCスコアとなります。これにより、安定して中心を狙える実力が正当に評価されます。

選手たちは毎試合の後に「今日のDSCはいくらだった?」と確認し合います。予選中盤以降は、このDSCのランキングも順位表と一緒に発表されることが多く、ファンにとっても見逃せない指標の一つとなっています。

なぜタイブレーク試合が行われなくなったのか

以前は、勝敗が並んだ場合は「タイブレーク試合」という追加の試合を行って順位を決めていました。しかし、過密な日程調整の難しさや、テレビ放送の枠の関係から、現在はLSDの成績(DSC)で順位を確定させる方式が主流となりました。

この変更により、LSDの価値は以前よりも飛躍的に高まりました。試合に勝つことはもちろん大切ですが、LSDを外さないことも同じくらい大切になったのです。特に接戦が予想されるリーグ戦では、LSDの1投が実質的な「得点」のような重みを持ちます。

観戦している私たちは、画面に表示される累積のDSC数値を見ることで、そのチームが今大会どれだけ氷を掴めているかを知ることができます。DSCが良いチームはショットの精度も高いことが多く、優勝候補を見極める材料にもなります。

世界選手権やオリンピックでは、予選1位と2位の差がDSCで決まることもよくあります。準決勝での組み合わせ(有利な相手と当たるかどうか)に関わるため、どのチームもDSCの数値を極限まで下げようと努力しています。

観戦をもっと楽しくするLSDの注目ポイント

ここまではルールを中心に解説してきましたが、実際に中継を見る際にどこに注目すればより楽しめるのか、観戦のコツをご紹介します。LSDには、試合本編とは違った緊張感と見どころが詰まっています。

アイスリーディング(氷の読み)の成否

LSDは、その日の氷の状態をチームがどう判断したかを最初に見せる場面です。氷は気温や湿度、直前の製氷作業によって刻一刻と変化します。LSDの石が予想以上に伸びたり、逆に曲がらなかったりする様子は、選手たちに大きなヒントを与えます。

もしLSDで中心にぴたりと止めることができれば、そのチームはその日の氷の「速さ」と「曲がり」を完全に把握したという証明になります。その後の第1エンド以降も、自信を持ってショットを投げることができるでしょう。

逆にLSDで大きく外してしまったチームは、「思ったより滑るぞ」「曲がりが鋭いな」と修正を迫られます。この試行錯誤のプロセスがLSDには凝縮されており、試合の序盤の展開を予見する楽しみがあります。

代表選手の技術と責任感

LSDを誰が投げるかという点も注目です。多くのチームでは、ドローショット(止めるショット)が得意なリードの選手や、最も経験豊富なスキップの選手が担当します。チームの運命を背負った1投になるため、投球者には大きな責任がかかります。

静まり返った会場で、たった1つの石の行方を全員が見守る光景は非常にドラマチックです。デリバリー(石を放つ動作)の瞬間の滑らかな動き、そしてリリース後の鋭い眼差しからは、トップアスリートの集中力の凄みが伝わってきます。

特定の選手が連続して良い数値を出し続けている場合、その選手は「LSD職人」のようにファンから親しまれることもあります。チーム内で誰がLSDを任されているのかを知ることで、チーム内の役割分担や信頼関係も見えてくるはずです。

スコアボードとグラフィックの見方

現代のカーリング中継では、LSDの結果が分かりやすいグラフィックで表示されます。中心からの距離が「15.4cm」のように表示され、どちらが後攻(Hammer)になったかがハンマーのアイコンで示されます。

また、大会によっては「LSD累積ランキング」が表示されることもあります。これを見ると、現在どのチームが一番ショットの精度が高い状態にあるのかが一目で分かります。優勝争いをしているチームが、LSDでも上位にいるかどうかを確認してみてください。

数値が「0.0cm」という、いわゆる「カバー・ザ・ピン(中心を完全に隠すショット)」が出たときは、会場から大きな拍手が湧き起こります。これはカーリングにおける最高難度のドローが決まった瞬間であり、その試合のボルテージが一気に上がる合図でもあります。

注目ポイント ここを見ると面白い!
投球者の表情 プレッシャーのかかる場面での集中力や、投げ終わった後の納得感。
スイーパーの動き 1ミリでも近づけようと必死に掃く、全力のスウィーピング。
表示される数値 数センチ、数ミリの差で決まる後攻争いのシビアさ。
累積のDSC 大会を通じた安定感と、予選敗退ラインでの順位争い。

ラストストーンドロー(LSD)の仕組みと後攻の決め方のまとめ

まとめ
まとめ

カーリングの試合前に行われるラストストーンドロー(LSD)は、第1エンドの「後攻(ハンマー)」を決めるための重要な儀式です。各チームの代表者が1投ずつ、時計回りと反時計回りの異なる回転で中心を狙い、その距離をミリ単位で競います。

後攻はカーリングにおいて戦術的に非常に有利であるため、LSDの成否は試合序盤の主導権争いに直結します。また、大会期間中のLSDの平均値である「DSC」は、予選で勝敗が並んだ際の順位決定に使われるため、1試合も疎かにできない重みを持ちます。

精密な測定が行われる一瞬の静寂や、中心ぴたりに止めようとするスイーパーたちの熱い動きなど、LSDにはカーリングの魅力が凝縮されています。次にカーリングを観戦する際は、試合開始前のこの1投にぜひ注目してみてください。選手たちの技術の高さと、数値の裏側にある戦略の深さを感じ、より一層観戦が楽しくなるはずです。

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