カーリングの試合をテレビなどで見ていると、選手たちが懸命にブラシで氷をこすっている姿が印象的ですよね。実は、カーリングのリンクはスケートリンクのようなツルツルの平らな面ではなく、表面に無数の小さな氷の粒がまかれています。この粒を「ペブル」と呼び、カーリングという競技を成立させるために不可欠な要素となっています。
この記事では、カーリングの氷の粒であるペブルの作り方やその役割、さらには氷の状態を管理する職人の技術について詳しくご紹介します。ペブルの秘密を知ることで、冬季スポーツとしてのカーリング観戦がより一層奥深く、楽しいものになるはずです。氷の上で何が起きているのか、その仕組みを一緒に紐解いていきましょう。
カーリングの氷の粒「ペブル」の作り方と基本的な仕組み

カーリングのリンク表面にある「ペブル」は、競技の戦略性を左右する極めて重要な存在です。まずは、この氷の粒がどのようなもので、なぜ必要なのかという基本から確認していきましょう。ただの氷の塊ではなく、計算し尽くされた構造がそこにあります。
ペブルとは何か?氷の表面にある無数の突起
カーリングのリンクを近くで観察すると、表面がザラザラとしたオレンジの皮のような状態になっていることがわかります。この表面にある小さな氷の粒の突起こそが「ペブル」です。ペブルは、特殊なじょうろのような道具を使って、リンク全体に均一に水をまくことで作られます。まかれた水滴が冷たい氷の上で瞬時に凍り、粒状に固まることでこの独特な表面が形成されるのです。
もしペブルがない真っ平らな氷の上でカーリングのストーンを投げると、ストーンの底面と氷が密着しすぎてしまい、真空状態のような摩擦が生じてうまく滑りません。また、ストーン特有の「曲がる(カールする)」という動きも、このペブルがあるからこそ発生します。つまり、ペブルはストーンをより遠くへ滑らせ、かつ繊細な軌道コントロールを可能にするための「滑走路」のような役割を果たしているのです。
この氷の粒は、1試合のうちに何度も作り直されることがあります。選手がストーンを投げたり、ブラシで激しくスイーピング(氷をこする動作)をしたりすることで、ペブルは少しずつ摩耗して平らになっていくからです。常に同じコンディションを保つことは難しく、その変化を読み取ることがカーリング選手の技術の一つとも言われています。
ペブルは、カーリングのストーンと氷の設置面積を減らすために不可欠な存在です。これにより、重さ約20kgのストーンが驚くほどスムーズに滑るようになります。
なぜペブルが必要なのか?摩擦を減らす魔法の粒
カーリングにおいてペブルが不可欠な最大の理由は、摩擦力のコントロールにあります。一般的に、物体同士の接触面積が大きくなると摩擦も大きくなります。カーリングのストーンは底面が凹んでおり、「ランニングエッジ」と呼ばれるドーナツ状の細い縁だけが氷に接する仕組みになっています。このエッジがペブルという「点」の上に乗ることで、接触面積を最小限に抑えているのです。
接触面積が減ると摩擦が少なくなり、軽い力でもストーンをリンクの端から端まで滑らせることが可能になります。また、スイーピングによって氷の表面を一時的に溶かす際も、ペブルの先端だけを溶かせばよいため、効率的に滑りを調整できます。このように、ペブルは競技のスピード感と緻密な距離感を支える物理的な基盤となっているのです。もしペブルがなければ、ストーンは数メートルで止まってしまうでしょう。
さらに、ペブルはストーンを「曲げる」役割も担っています。ストーンがゆっくり回転しながら進む際、ペブルとの接触によって左右にわずかな抵抗の差が生まれ、それが大きなカーブとなって現れます。この曲がりこそが「カーリング」という名前の由来でもあり、戦略の要です。ペブルの状態が良ければ良いほど、選手たちは思い描いた通りのドローショットやテイクアウトショットを繰り出すことができます。
ペブルを作るための道具「ペブル缶」の特徴
ペブルを作るためには、「ペブル缶」や「ペブルタンク」と呼ばれる専用の道具が使用されます。これはリュックサックのように背負うことができる水タンクに、長いホースと特製のシャワーヘッドがついたものです。このヘッドの先には、非常に小さな穴が無数に開いたノズルが取り付けられています。このノズルの穴のサイズや形状によって、作られるペブルの大きさが変わる仕組みです。
ペブル缶に使われるノズルは、散水用のシャワーヘッドとは全く異なります。非常に精密な設計がなされており、水が均一な大きさの粒として飛び出すように工夫されています。また、使用する水の温度を一定に保つための断熱構造を持っているものもあり、職人はその日の気温やリンクの状況に合わせて最適な道具を選択します。まさに、カーリングの氷作りを支える専用の精密機器といえるでしょう。
ペブルを作る道具の主な構成要素:
・背負い式の水タンク:作業者が背負って移動しやすく設計されています。
・散布用ホース:自由な角度で水をまくための柔軟なホースです。
・専用ノズル(ヘッド):水滴の大きさを決定する最も重要なパーツです。
理想的なペブルを作るための具体的な手順とテクニック

ペブルを作る作業は、単に水をまくだけの簡単な仕事ではありません。そこには長年の経験に裏打ちされた高度な技術が必要です。水質の管理から散布時の歩行スピードまで、すべての工程が氷の質に直結します。ここでは、プロのアイスメーカーが実践する具体的な手順について解説します。
使用する水へのこだわり(純水と温度)
ペブルの作り方において、最初にして最も重要なのが「水」の管理です。カーリングのリンクでは、水道水をそのまま使うことはほとんどありません。水道水に含まれるミネラル分や不純物は、凍ったときに氷の硬さや滑りに悪影響を及ぼすからです。そのため、一般的には不純物を取り除いた「純水」や「脱イオン水」が使用されます。これにより、透明度が高く、強度の強い均一なペブルを作ることができます。
また、水の温度管理も非常にシビアです。使用する水の温度は、通常30度から50度程度の「ぬるま湯」であることが多いです。冷たすぎる水では氷の上でうまく広がらず、熱すぎるとベースとなる氷を溶かしすぎてしまいます。適切な温度の水を使うことで、氷の表面にしっかりと密着しつつ、理想的な半球状の粒を形成することができるのです。この温度設定は、リンク内の室温や氷の表面温度を考慮して、その都度微調整されます。
水質の良し悪しは、試合後半のペブルの「持ち」に大きく影響します。純度の高い水で作られたペブルは、ストーンに削られにくく、最後まで安定した滑りを提供してくれます。逆に不純物が多いと、ペブルが脆くなりやすく、試合が進むにつれて氷の表面が粉っぽくなってしまうことがあります。最高のパフォーマンスを引き出すためには、目に見えない水質へのこだわりが欠かせないのです。
プロのアイスメーカーは、水の中に含まれる成分を数値化してチェックし、必要に応じてろ過装置を調整します。最高の一投は、一杯の純水から始まると言っても過言ではありません。
氷の上を歩くリズムと散布のタイミング
水が準備できたら、いよいよリンクにペブルをまいていきます。この際、アイスメーカーはリンクを後ろ向きに歩きながら、一定のリズムで腕を左右に振り、水を散布します。この「歩くスピード」と「腕を振る速さ」のコンビネーションが、ペブルの密度を決定します。速すぎるとペブルがまばらになり、遅すぎると粒同士が重なって大きな塊になってしまいます。
熟練の職人は、メトロノームを使っているかのような正確なリズムで作業を行います。リンクの端から端まで、常に一定の間隔で水滴を落としていくことで、どの場所にストーンを投げても同じ滑り心地になる「均一な氷」が完成します。少しでもリズムが狂うと、場所によってストーンが伸びたり止まったりする原因となり、競技の公平性が損なわれてしまうため、非常に神経を使う作業です。
また、ペブルをまくタイミングも重要です。リンク全体の清掃が終わった直後、氷の表面温度が最も安定している瞬間を狙って行われます。一度ペブルをまき終えたら、それが完全に凍るまで数分から数十分待機します。この待ち時間の間にリンク内の空気を循環させ、湿度を調整することも仕事の一部です。単なる作業ではなく、氷と対話しながら進める繊細な儀式のような工程です。
均一な粒を作るためのノズル操作のコツ
ノズルを左右に振る動作にも、特有のテクニックが存在します。単に横に振るのではなく、弧を描くようにしなやかに振るのがポイントです。これにより、水滴がリンクの表面に対して垂直に近い角度で落ちるようになり、きれいな丸い形のペブルが形成されます。ノズルの高さも重要で、高すぎると水滴が空中で冷えすぎて形が崩れ、低すぎると散布範囲が狭くなってしまいます。
ノズルを振る幅は、通常リンクの半分(あるいは全体)をカバーするように計算されています。一度の往復でどれだけの範囲に、どれくらいの密度の粒を配置するかは、ノズルの穴の数や水圧によっても変わります。アイスメーカーは自分の道具の特性を完全に把握しており、リンクの癖に合わせて振り方を微調整します。例えば、中央付近はストーンが多く通るため、少し密度を濃くするといった工夫がなされることもあります。
この散布技術を習得するには、数年以上の経験が必要とされます。水の出し始めから出し終わりまで、水圧を一定に保ちながら腕を動かし続けるのは、肉体的にもハードな作業です。しかし、この丁寧なノズル操作があるからこそ、トッププレイヤーたちが数センチ単位の精度でストーンを操ることができるのです。観戦の際は、試合前に黙々と作業するアイスメーカーの動きにも注目してみてください。
ペブルの形状を整える「ニッピング」の工程

ペブルをまいて凍らせただけでは、実はまだ完璧な状態ではありません。まきたてのペブルは頂点が尖っていたり、高さが不揃いだったりすることがあるからです。そこで重要になるのが、ペブルの頭をわずかに削る「ニッピング」という作業です。この工程によって、氷の状態は完成へと近づきます。
ニッパー(削り機)を使用する目的
「ニッパー」とは、リンクの幅と同じくらいの長さを持つ鋭利な刃がついた専用の道具です。これを氷の上で滑らせることで、凍ったペブルの先端をほんの数ミリだけ削り取ります。この作業の主な目的は、ペブルの頂点を平らに整えることにあります。尖ったままのペブルだと、ストーンが乗った際に粒が砕けやすく、滑りが不安定になってしまうからです。
また、ニッピングには「氷のスピードを上げる」という役割もあります。ペブルの先端が平らになることで、ストーンのエッジとの接触が安定し、摩擦がさらに軽減されます。新品のタイヤを少し走らせて表面を馴染ませる感覚に似ているかもしれません。この削り具合によって、その日の氷の「速さ」が決まるため、アイスメーカーは非常に慎重に作業を進めます。
さらに、ニッピングは氷の表面にある微細な霜やゴミを取り除く効果もあります。純水を使っていても、空気中の水分が凍って「霜」として付着することがあります。これらが残っていると、ストーンの滑りを邪魔する原因となります。ニッパーで表面を一掃することで、鏡のように美しい、そして機能的な競技面が作り出されるのです。
ペブルの頂点を平らにして滑走面を安定させる
ニッピングによってペブルの頂点が平らになると、ストーンは安定した「点(正確には小さな面)」の上を滑るようになります。これを「フラットトップ・ペブル」と呼ぶこともあります。頂点が平らであれば、ストーンが通過してもペブルが壊れにくく、試合を通してコンディションが変化しにくくなるというメリットがあります。これは選手にとって、ショットの予測が立てやすくなることを意味します。
もしニッピングが不十分だと、試合の序盤でペブルが次々と砕け、その破片がストーンの下に入り込む「ピックアップ」という現象が起きやすくなります。ピックアップが起きると、ストーンは急激に曲がったり止まったりしてしまい、競技になりません。ニッピングは、このようなトラブルを未然に防ぎ、フェアな試合環境を維持するための、縁の下の力持ち的な作業なのです。
削り取られたわずかな氷の粉は、すぐに専用のブラシやモップで回収されます。この清掃作業も非常に重要で、少しでも粉が残っていると滑りに影響します。アイスメーカーはニッパーを引いた後、氷の状態を指で触ったり、実際に小さなテスト用のストーンを滑らせたりして、納得のいく仕上がりになっているかを確認します。そのこだわりが、世界最高峰の試合を支えています。
試合の進行状況に合わせた微調整
ニッピングは、試合開始前だけでなく、ハーフタイム(休憩時間)に行われることもあります。カーリングは1試合が数時間に及ぶため、後半になるとペブルがすり減って、滑りが悪くなったり曲がりが大きくなったりします。そこで、一旦ペブルを清掃し、必要であれば再度薄くペブルをまき、軽くニッピングを施すことで、氷の状態をリセットするのです。
この際、アイスメーカーは前半の試合展開をよく観察しています。「今日は曲がりが少ないな」と感じれば、ペブルの削り方を変えて曲がりやすく調整することもあります。選手のプレースタイルや観客の熱気(体温による室温上昇)まで考慮に入れて、最適な氷を作り上げるのです。ニッピングの力加減一つで、試合の流れが変わることもあると言っても過言ではありません。
氷の状態を左右するペブルの種類と使い分け

カーリングのペブルには、実はいくつかの種類があります。粒の大きさや密度の違いによって、ストーンの挙動は劇的に変わります。ここでは、状況に応じて使い分けられるペブルのバリエーションと、それを左右する環境要因について解説します。
粒の大きさが生む「コース・ペブル」と「ファイン・ペブル」
ペブルには大きく分けて、粒が大きい「コース・ペブル(Coarse Pebble)」と、粒が小さい「ファイン・ペブル(Fine Pebble)」の2種類があります。コース・ペブルは、より多くの水をまくことで作られ、耐久性が高いのが特徴です。一方、ファイン・ペブルは非常に繊細な霧のような水滴で作られ、滑走面の摩擦を極限まで減らすことができます。
一般的には、これらを組み合わせて氷を作ります。ベースとなる層には耐久性のあるコース・ペブルをまき、その上に滑りを良くするためのファイン・ペブルを重ねる手法がよく使われます。これにより、滑りの良さと耐久性の両立を図っているのです。粒のサイズ差を比較すると以下のようになります。
| 種類 | 特徴 | 主な役割 |
|---|---|---|
| コース・ペブル | 粒が大きく、氷の表面にしっかり定着する。 | 土台作り、耐久性の向上。 |
| ファイン・ペブル | 粒が小さく、ストーンの滑りが非常に速くなる。 | スピード調整、最終的な仕上げ。 |
これらの使い分けは、アイスメーカーの戦略によって決まります。例えば、多くの試合が行われる大会の初日は、氷を長持ちさせるためにコース・ペブルを主体にすることがあります。逆に、一発勝負の決勝戦などでは、最高の滑りを追求してファイン・ペブルの比重を高めることもあります。氷の表面には、アイスメーカーから選手への「メッセージ」が込められているのです。
2層に重ねる「ダブル・ペブル」の技法
現代のカーリングで主流となっているのが、ペブルを2回に分けてまく「ダブル・ペブル」という技法です。1回目にまいたペブルが凍った後、その上からさらに2回目のペブルを重ねます。こうすることで、氷の表面に複雑な凹凸が生まれ、ストーンの滑りと曲がりのバランスが劇的に向上します。1層だけの場合よりも、ストーンがペブルに「乗っている」感覚が強まり、繊細なコントロールが可能になると言われています。
ダブル・ペブルを行う際は、1回目と2回目でノズルの種類や振るスピードを変えるのが一般的です。例えば、1回目に大きな粒をまいて凹凸のベースを作り、2回目に小さな粒をまいて隙間を埋めるように仕上げます。この「層の厚み」が、カーリング特有の複雑な戦略を生む土壌となっているのです。トップクラスの大会では、さらに3層、4層と重ねることもある非常に奥深い技術です。
選手たちは、この2層構造のペブルがどのように削れていくかを計算しながらプレーします。試合が進んで上の層が削れると、下の層のペブルが顔を出し、滑り心地が変わります。この変化を「アイスを読み切る」と表現します。ダブル・ペブルという高度な作り方が、カーリングを単なるスポーツから、高度な頭脳戦へと昇華させている要因の一つと言えるでしょう。
室温や湿度がペブルに与える影響と対策
ペブルは非常に繊細なため、リンク内の環境変化に敏感に反応します。特に「湿度」と「温度」は最大の敵です。湿度が高いと、空気中の水分が氷の表面で結露してしまい、ペブルの間に霜が詰まってしまいます。これではせっかく作った凹凸が埋まってしまい、ストーンが全く滑らなくなってしまいます。逆に乾燥しすぎると、ペブルがもろくなり、ストーンが通るたびに粉々に砕けてしまいます。
アイスメーカーは、巨大な除湿機や空調システムを駆使して、リンク内の環境を一定に保つ努力をしています。観客が会場に入ると、人の体温や吐息で室温と湿度が上がります。そのため、試合開始前にはあえて少し低めの温度に設定しておくなど、先を読んだ管理が必要です。ペブルの作り方そのものだけでなく、それを取り囲む「空気」を操ることも、理想の氷作りには欠かせません。
また、リンクの地下を通る冷却パイプの温度管理も重要です。氷が硬すぎるとペブルが定着しにくく、柔らかすぎるとペブルが沈み込んでしまいます。常にマイナス数度の範囲で精密にコントロールされた氷の厚みがあってこそ、その上のペブルが輝きます。カーリングはまさに、科学と職人技が融合した芸術的な環境で行われているのです。
氷の表面温度がわずか0.5度変わるだけで、ストーンの移動距離は1メートル以上変わると言われています。アイスメーカーはこの繊細な変化を常に監視しています。
アイス・テクニシャンが追求する究極の氷づくり

これまで解説してきたペブルの管理を一手に引き受けるのが、「アイス・テクニシャン(アイスメーカー)」と呼ばれる専門家たちです。彼らは単なる作業員ではなく、物理学や気象学の知識を持ち合わせ、選手のパフォーマンスを最大化させるクリエイターでもあります。彼らの視点を知ることで、観戦の深みが変わります。
ストーンの「曲がり」を計算する職人の視点
アイス・テクニシャンが最も心を砕くのが、ストーンの「曲がり幅」の調整です。カーリングの醍醐味であるカールの度合いは、ペブルの形状と密度によって制御できます。あまりに曲がりすぎると難易度が高すぎ、全く曲がらない氷は「ストレート・アイス」と呼ばれ、戦略の幅を狭めてしまいます。一般的には、ハウス(円)の端から中心まで綺麗に曲がるような氷が理想とされます。
この理想の曲がりを作るために、職人はペブルの粒の「立ち方」にこだわります。水滴が凍る際、わずかに横に広がって凍るか、ぷっくりと盛り上がって凍るかによって、ストーンのエッジが受ける抵抗が変わります。散布時の水の温度を1度単位で調整したり、ノズルを振る高さを数センチ変えたりするのは、すべてこの「理想のカーブ」を実現するためなのです。
また、リンクの左右で曲がり方が異ならないよう、徹底した均一性を追求します。広いリンクの上で、どこで投げても同じ結果が得られる状態を作るのは至難の業です。しかし、それが実現されて初めて、選手たちは自分の技術を信じて思い切ったショットを打つことができます。アイス・テクニシャンは、選手が最高のプレーをするための舞台を整える、無言の共演者なのです。
試合中のペブルの摩耗と変化への対応
ペブルは試合が進むにつれて必ず劣化していきます。特にストーンが頻繁に通る中央部分は、ペブルの頭が削れて平らになっていきます。この現象を「フラット・アイス」と呼びます。平らになった部分は滑りが速くなる一方で、ストーンが曲がりにくくなる傾向があります。選手たちはこの変化を敏感に感じ取り、投げる強さやラインを調整します。
アイス・テクニシャンは、試合の合間に氷の状態を確認し、必要であれば「再ペブル」を行います。しかし、単に新しくまくだけではなく、残っている古いペブルとの相性も考えなければなりません。古いペブルが多すぎると氷が重くなり、少なすぎると新しくまいたペブルが安定しません。その場その場での判断が求められる、非常に経験値が必要な場面です。
また、スイーピングによって削られた氷の微粒子がペブルの間に溜まることもあります。これがストーンの底に付着すると大事故につながるため、モップがけのタイミングや丁寧さも重要です。試合中にアイス・テクニシャンが氷の上を歩く姿が見えたら、それは次のエンド(回)を最高の状態で迎えるための「治療」を行っているのだと考えてみてください。
観客が注目すべき氷の変化と観戦の楽しみ方
カーリングを観戦する際、ペブルのことを知っていると見え方が変わります。例えば、試合の序盤と終盤で選手の投げ方が変わっていることに気づくでしょう。序盤はペブルがしっかりしているため、ストーンが大きく曲がる様子を楽しめます。終盤になるとペブルが削れて「速い氷」になり、より繊細なウェイト(強さ)コントロールが要求されるスリリングな展開が増えます。
また、選手が投球前に手で氷を撫でているシーンがあれば、それはペブルの状態を指先で確認している証拠です。霜がついていないか、ペブルの高さは十分か。あの仕草一つにも、アイスとの対話が含まれています。テレビ解説者が「アイスが変わってきましたね」と言ったときは、まさにペブルの摩耗によってコンディションが変化したことを指しています。
アイス・テクニシャンの個性が氷に現れることもあります。ある会場では「今日はすごく曲がる氷だ」、別の会場では「今日はストレート気味だ」といった具合です。その特性に合わせて戦略を組み立てるのが一流の選手であり、その駆け引きこそがカーリングの真髄です。氷の粒というミクロな世界が、試合というマクロなドラマを作っている。そう考えると、一粒一粒のペブルが愛おしく見えてくるかもしれません。
カーリング観戦がもっと楽しくなるチェックポイント:
・選手の投球前のルーティン(氷の感触を確認しているか)
・ハーフタイム後のストーンの動きの変化(再ペブルの影響)
・スイーピングをしている場所のペブルの状態(激しくこすって溶かしている)
カーリングの氷の粒「ペブル」の作り方を知って観戦をより深く楽しもう
カーリングの命とも言える氷の粒「ペブル」の作り方と、その重要性について解説してきました。一見すると平らな氷の上でストーンを滑らせているだけのように見えますが、その足元にはアイス・テクニシャンによる緻密な計算と熟練の職人技が詰まっています。
不純物を除いた純水を用い、一定のリズムと温度でまかれるペブル。そして、その頂点を鋭利な刃で削り取るニッピングの工程。これらの丁寧な準備があるからこそ、重いストーンが優雅に滑り、魔法のように美しいカーブを描くことができるのです。室温や湿度の変化に対応しながら、試合の最後まで安定したコンディションを保つ努力は、まさに驚異的と言えます。
次にカーリングの試合を観戦するときは、ぜひ選手たちの背後にある「氷の物語」を想像してみてください。ペブルの状態を読み、スイーピングで氷を操る選手たちの技術が、どれほど高度なものかがより鮮明に伝わってくるはずです。氷の粒が作り出すドラマを知ることで、あなたのカーリング観戦は今まで以上にエキサイティングで深いものになるでしょう。



