フィギュアスケートを観戦していると、「あれ?この曲、さっきの選手も滑っていなかったかな?」と感じることはありませんか。実は、フィギュアスケート界では複数の選手が同じ音楽を使用する「曲かぶり」が珍しくありません。また、近年ではフィギュアスケートの曲かぶりや著作権に関するルールがより厳格化されており、ファンの間でも注目が集まっています。
この記事では、なぜフィギュアスケートで曲かぶりが頻繁に起こるのか、その戦略的な理由や背景にある著作権の仕組みについて、初心者の方にも分かりやすく解説します。また、SNSへの動画投稿など、ファンが知っておくべき注意点についても触れていきます。この記事を読めば、氷上の音楽が持つ深い意味を理解でき、次回の観戦がさらに奥深いものになるはずです。
フィギュアスケートで曲かぶりが起きる理由と著作権の基本知識

フィギュアスケートの世界では、同じシーズンに世界中の選手が同じ曲を選ぶことが多々あります。これには競技としての戦略的な側面と、音楽を使用する上での法的なルールが密接に関係しています。まずは、なぜ「曲かぶり」が発生するのか、その根本的な理由と著作権の基本的な仕組みについて見ていきましょう。
なぜトップ選手の間で同じ曲が選ばれるのか
フィギュアスケートで特定の楽曲が重なる最大の理由は、その曲が「競技として評価されやすい構成」を持っているからです。フィギュアスケートは、単に美しく滑るだけでなく、ジャンプやスピンといった技術要素を音楽の盛り上がりに合わせて配置する必要があります。そのため、曲の構成がドラマチックで、テンポの切り替えが明確な曲ほど、高い得点を狙いやすくなるのです。
例えば、静かな旋律から始まり、中盤でテンポが上がり、終盤で壮大なクライマックスを迎えるような楽曲は、演技のストーリーを構築しやすく、ジャッジに対しても強い印象を与えることができます。こうした「勝てる曲」は限られているため、結果として多くの選手が同じ名曲を選ぶことになり、フィギュアスケートの曲かぶりという現象が生まれます。
また、過去のメダリストが使用して高得点を出した「縁起の良い曲」も選ばれやすい傾向にあります。偉大な先輩たちが滑った曲を使うことで、観客やジャッジにその名演技の記憶を呼び起こさせ、好意的な評価を得るという心理的な戦略も含まれているのです。このように、曲選びは選手の好みだけでなく、勝つための計算に基づいた高度な戦略の一つと言えます。
競技会における音楽使用と著作権料の仕組み
選手が氷上で音楽を流して演技をする際、当然ながらそこには著作権が発生します。一般的に、大きな競技会やアイスショーでは、主催者側が包括的な契約を結んで著作権料を支払っています。日本では日本音楽著作権協会(JASRAC)などが管理しており、会場で音楽を流すこと(演奏権)については、主催者が一括して手続きを行うのが通例です。
しかし、近年の国際的な動向として、音楽の権利関係はより複雑化しています。国際スケート連盟(ISU)の規定では、本来「使用する音楽の権利処理は選手自身の責任で行うべき」とされています。これまでは競技会場での利用について厳しく追及されることは少なかったのですが、インターネットでの配信が普及したことにより、この状況に変化が生じています。
フィギュアスケートと著作権の関係におけるポイント
・会場で流すための「演奏権」は主催者が処理することが多い
・ネット配信や録画に関わる「複製権」や「公衆送信権」は別途処理が必要
・ISU(国際スケート連盟)の規定では、選手個人に権利処理の責任がある
このように、単に「曲を流す」だけでなく、それをどのように発信するかによって必要な権利が変わってきます。競技会を運営する組織と選手、そして音楽の著作権者の三者が、正しいルールに基づいて音楽を活用することで、素晴らしい演技が世界中に届けられる仕組みが成り立っているのです。
2024年に話題となった「著作権侵害訴訟」と最新動向
2024年、フィギュアスケート界を揺るがす大きなニュースがありました。アメリカのペア選手が競技で使用した楽曲のカバー版について、著作権者から訴えを起こされたのです。この事件は、これまで「慣習的」に許容されていた音楽使用が、法的リスクを孕んでいることを世界中の関係者に知らしめる結果となりました。
この訴訟を受け、米国フィギュアスケート協会や日本スケート連盟は、選手に対して「使用する楽曲の権利を確実にクリアすること」を強く求める通達を出しました。これにより、選手たちは自ら、あるいは連盟を通じて、楽曲の使用許可を正式に取得する必要に迫られています。これは選手にとって大きな負担となりますが、音楽家の権利を守るという観点からは避けて通れない課題です。
最新の動向としては、ISUが音楽ライセンス取得をサポートする専門企業と提携するなど、選手がスムーズに権利処理を行える環境づくりが始まっています。今後は、権利がクリアされていない曲は大会で使用できなくなる可能性もあり、選曲の段階から「著作権が守られているか」をチェックすることが、現代のフィギュアスケーターにとって必須のスキルとなっています。
採点に有利?名曲やクラシックが「曲かぶり」しやすい戦略的なメリット

フィギュアスケートの大会で『カルメン』や『白鳥の湖』、『ロミオとジュリエット』などの定番曲を何度も耳にするのは、それらが「王道」として評価を確立しているからです。ここでは、選手たちがリスクを承知で「曲かぶり」を選ぶ戦略的なメリットについて、採点基準の観点から掘り下げていきます。
演技構成点(PCS)における「音楽の解釈」の重要性
フィギュアスケートの得点は、技術点(TES)と演技構成点(PCS)の合計で決まります。PCSの中には「音楽の解釈(Interpretation of the Music)」という項目があり、ここをいかに高く評価してもらうかが勝敗を分けることがあります。有名な名曲は、聴き手がその曲の雰囲気やストーリーを熟知しているため、選手が音楽に合わせて動いた際の「説得力」が増しやすくなります。
例えば、誰もが知る悲劇のヒロインの曲を使えば、その表情や手の動きが何を意味しているのかが、ジャッジに瞬時に伝わります。全く知らない現代音楽で同じ動きをするよりも、共通認識がある名曲を使うほうが、表現の意図が伝わりやすく、高スコアに結びつきやすいというメリットがあります。これは、観客やジャッジとの間に「音楽という共通言語」を介在させているようなものです。
また、名曲はオーケストラの演奏など音に厚みがあるものが多いため、広いスケートリンクでも音が負けず、ダイナミックなスケーティングを引き立ててくれます。選手の滑りが音楽のパワーに負けず、一体感を持って表現されたとき、音楽の解釈のスコアは飛躍的に伸びることになります。これこそが、トップ選手たちが「かぶり」を恐れずに名曲に挑む大きな理由です。
観客とジャッジを惹きつけるドラマチックな旋律の効果
フィギュアスケートは、いわば「氷上の舞台」です。観客をどれだけ自分の世界に引き込めるかが重要であり、そのためには音楽の力を借りるのが最も効果的です。クラシックやオペラ、有名な映画音楽などは、長年にわたって人々を感動させてきた歴史があります。その「感動を呼ぶ旋律」を背負って滑ることは、会場全体の熱量を高める強力な武器になります。
特にフリープログラムのように長い演技では、観客の集中力を維持させることが欠かせません。中盤の盛り上がりや、最後のコレオシークエンス(自由な振り付け区間)での大サビなど、観客が「ここで手拍子をしたい」と思えるような明確なリズムがある曲は、会場の一体感を生み出します。ジャッジも人間ですから、会場が盛り上がっている中で繰り出される演技には、自然と高い評価を与えやすくなる側面があるのです。
ドラマチックな音楽は、選手のミスをカバーする効果さえあります。たとえジャンプで少しバランスを崩しても、その後の壮大なメロディに合わせて力強く滑り出せば、演技全体の印象を損なわずに立て直すことができます。感情の振れ幅が大きい楽曲は、選手の情熱を視覚化し、記憶に残る名演技を生み出すための絶好のキャンバスとなるのです。
ジャンプのタイミングを合わせやすいリズムの秘密
フィギュアスケートの演技において、ジャンプは最も緊張する瞬間です。一流の選手は、音楽の拍子に合わせて踏み切り、着氷する瞬間にアクセントが来るように調整しています。この「音ハメ」と呼ばれる技術が完璧であればあるほど、プログラムの完成度は高く評価されます。定番の楽曲には、一定のリズムや明確なアクセントが含まれていることが多く、これが選手にとっての「ガイド」となります。
例えば、4分の3拍子のワルツであれば、リズムが一定で予測しやすいため、複雑なステップからジャンプへと移行するタイミングが計りやすくなります。逆に、リズムが不規則な現代的な曲や、ビートが弱すぎる曲では、音に合わせるだけで精一杯になり、肝心の技術要素でミスが出やすくなるリスクがあります。そのため、高難度のジャンプに挑戦する選手ほど、リズムが安定した「王道の曲」を選ぶ傾向があります。
また、編曲の際にも、名曲であればどこをカットして繋げれば自然な流れになるか、過去の膨大なデータがあります。振付師にとっても、有名な曲のほうがジャンプを跳ぶべき「ここぞという場所」を見つけやすく、理にかなったプログラム構成を作りやすいのです。こうした実利的なメリットが、フィギュアスケートにおける曲かぶりを支える土台となっています。
ボーカル曲解禁からAI活用まで!フィギュアの選曲ルール変遷

フィギュアスケートで使用できる音楽のルールは、時代とともに大きく変わってきました。かつては制限されていたことが、現在では自由になり、表現の幅は劇的に広がっています。このセクションでは、選曲ルールの歴史的な転換点と、最新技術がもたらす新しい可能性について解説します。
2014年シーズンから始まったボーカル入りの歴史
かつてフィギュアスケート(シングルおよびペア)では、歌詞のある「ボーカル曲」の使用はルールで禁止されていました。歌が入っていると「音楽の表現が歌詞に頼りすぎてしまう」という懸念があったためです。当時はアイスダンスでのみボーカルが許されており、シングル選手はオペラであっても歌なしのインストゥルメンタル版を探す必要がありました。
しかし、2014-2015シーズンから、ISUは全種目でのボーカル曲使用を解禁しました。このルール改正はフィギュアスケート界に革命をもたらし、ポップス、ロック、ジャズなど、あらゆるジャンルの楽曲が氷上で流れるようになりました。解禁初年度の大会では、多くの選手が最新のヒットチャートや伝説的な歌手の歌声に乗せて滑り、観客を大いに驚かせ、喜ばせました。
ボーカルが解禁されたことで、選手は歌詞の意味を通じて、より直接的にメッセージを伝えられるようになりました。言葉の力と体の表現が融合することで、これまでにない深みのあるプログラムが次々と誕生しています。この変革は、若い世代のファン層を拡大し、フィギュアスケートをより現代的でエキサイティングなスポーツへと進化させる決定的な一歩となりました。
音楽編集と「同一性保持権」の意外な関係
フィギュアスケートのプログラムは、ショートプログラムが約2分40秒、フリーが約4分と厳格に決められています。そのため、元の楽曲をそのまま使うことはまず不可能であり、必ず「編集(カットや繋ぎ合わせ)」が必要になります。ここで問題となるのが、著作権の一部である「同一性保持権」という考え方です。
同一性保持権とは、著作者の意図に反して、作品を勝手に改変されない権利のことです。音楽を細切れにカットしたり、本来繋がらないはずの箇所を繋いだりすることは、作曲家や編曲家の意図を損なう行為とみなされる可能性があります。フィギュアスケート界では、古くから編集が当たり前に行われてきましたが、法的な観点からは非常にデリケートな問題を孕んでいます。
このように、演技を支える数分間の音楽の裏側には、編集という創造的な作業と、それを守るための権利が共存しています。ただ音を切るだけでなく、一つの新しい物語として再構築する編曲の技術もまた、プログラムの質を高める重要な要素なのです。
最新ルールで認められたAI作曲の可能性
近年、さらに新しいルールが追加されました。それは「AIが作曲した音楽の使用」です。2025/26シーズンのルールでは、アイスダンスのリズムダンスなどで、特定の時代のスタイルを再現したAI作曲の楽曲を使用することが明確に許可されました。これは、複雑化する著作権問題に対する一つの現実的な解決策として注目されています。
既存の有名曲を使用する場合、莫大な使用料が発生したり、権利者との交渉に時間がかかったりすることがあります。しかし、AIを使って「1990年代風のオリジナル曲」を生成すれば、権利関係をクリーンにした状態で、かつ自分の演技に完璧にマッチした音楽を手に入れることができます。最新テクノロジーを競技に取り入れる姿勢は、伝統を重んじるフィギュアスケート界においても大きな転換点です。
もちろん、人間の魂がこもった名曲を滑ることの価値が失われるわけではありません。しかし、AIという新しい選択肢が加わったことで、今後これまでにない斬新なリズムや構成のプログラムが登場することが期待されています。技術と芸術、そしてテクノロジーが融合する最前線として、フィギュアスケートの音楽シーンはさらに進化し続けていくでしょう。
SNSや動画投稿で注意したい!演技映像と著作権のトラブル

現地観戦をした際やテレビで観戦した際、感動を共有したくてSNSに演技動画をアップロードしたくなることはありませんか。しかし、そこには非常に厳しい著作権のルールが存在します。ファンが意図せず加害者になってしまわないよう、デジタル時代における映像と音楽の取り扱いについて正しく理解しておきましょう。
テレビ放送とネット配信で権利の扱いが異なる理由
フィギュアスケートの試合が地上波で放送される場合、放送局と著作権管理団体の間で「放送に関する契約」が結ばれているため、私たちは自由に番組を楽しむことができます。しかし、これが「インターネット配信」や「SNSへのアップロード」となると、話は一気に複雑になります。ネットでの利用には、放送とは別の権利(公衆送信権など)が必要になるからです。
特に問題となるのが「原盤権」です。メロディそのものの権利(著作権)だけでなく、CDなどに収録された音源そのものを使う権利のことです。放送局はこの処理も行っていますが、個人がSNSに動画をアップする際には、この原盤権の許諾を直接得ていることはまずありません。そのため、たとえ非営利であっても、音楽が流れている演技映像をそのままネットに載せることは、法的にアウトとなるケースがほとんどです。
最近ではYouTubeやTikTokなどのプラットフォーム側が、包括的な契約によって一部の楽曲利用を認めていることもありますが、それも万全ではありません。AIによる自動検知システムによって、投稿した動画が無音化されたり、アカウントが凍結されたりするリスクがあることを覚えておきましょう。公式が配信している映像を「シェア」するのが、最も安全で確実な楽しみ方です。
ファンが撮影した動画をアップロードする際のリスク
近年、一部の大会やアイスショーでは「写真・動画撮影OK」の時間が設けられることがあります。これ自体はファンにとって嬉しいサービスですが、撮影した動画を自分のSNSに公開する際には細心の注意が必要です。「撮影していいと言われたから、ネットに上げてもいいだろう」という思い込みは非常に危険です。
会場内での撮影が許可されていても、それはあくまで「個人で楽しむため」の許可であることが多いからです。撮影された動画には選手の演技だけでなく、背景に流れている音楽もしっかりと記録されています。この音楽をネット上で不特定多数に届けることは、前述の「公衆送信権」の侵害にあたる可能性が高くなります。また、選手の肖像権という別の問題も絡んできます。
SNS投稿時のチェックリスト
・その大会の「SNS利用規約」を必ず確認する
・音楽が含まれる動画は、たとえ短くても権利侵害のリスクがある
・公式アカウントの投稿をリポスト(拡散)するのが最も安全
ファンの熱意が選手や競技を支えているのは事実ですが、ルールを無視した投稿が重なると、将来的に「撮影禁止」などの厳しい措置が取られることにもなりかねません。応援の気持ちが、結果的に競技の首を絞めることのないよう、節度を持った発信が求められています。
海外の大会と日本の大会で異なる音楽の権利処理
フィギュアスケートの動画を観ていると、日本の大会はすぐ消されるのに、海外の大会動画は残り続けているという現象を見かけるかもしれません。これは、国によって著作権法の運用や、管理団体の力が異なることが背景にあります。しかし、「海外の動画が大丈夫だから、自分もいいだろう」と判断するのは早計です。
例えば、アメリカの放送局がYouTubeで配信している動画は、アメリカ国内での権利処理を済ませているために公開されていますが、それが日本からでも見られるかどうかは別問題です。また、海外の個人投稿者が見逃されているからといって、日本国内の法律に基づいて管理されている私たちが同じように振る舞えば、日本の法制度下で処罰の対象になる可能性があります。
日本の著作権管理は世界的に見ても非常に厳格で、精度が高いと言われています。特にJASRACなどはインターネット上の無断利用に対して積極的に対応を行っています。グローバルなスポーツであるからこそ、各国のルールの違いを意識し、常に自分のいる場所の法律やルールを遵守することが、トラブルを避けるための賢明な方法です。
フィギュアファンのための音楽鑑賞術と「曲かぶり」の楽しみ方

フィギュアスケートにおける「曲かぶり」は、決してネガティブなことだけではありません。むしろ、同じ音楽を使う選手が複数いるからこそ、それぞれの個性が浮き彫りになるという楽しみ方があります。ここでは、音楽という視点から観戦をより深く楽しむためのポイントを提案します。
同じ曲だからこそ際立つ選手の「表現力の違い」
同じ曲、例えば有名な『ノクターン』や『ボレロ』を使っている選手が複数いるとき、それは究極の「比較観戦」のチャンスです。全く同じメロディに対して、ある選手は繊細な指先の動きで切なさを表現し、別の選手は力強い全身の動きで情熱を爆発させるかもしれません。このアプローチの違いこそが、フィギュアスケートという芸術スポーツの醍醐味です。
音楽の解釈は選手ごとに異なります。曲のどの部分を強調し、どの部分で力を抜くのか。また、ジャンプを跳ぶ場所がサビの前なのか、サビの真っ最中なのかといった構成の違いを比較することで、選手の「音楽への理解度」や「美学」が見えてきます。曲がかぶっているからこそ、音楽に依存しない、選手自身の本来の表現力やスケート技術の差が鮮明になるのです。
観戦する際は、ぜひ音楽のテンポとスケートの速さが合っているかに注目してみてください。一流の選手は、速い旋律では氷を細かく刻み、ゆったりとした音では一蹴りでリンクの端まで伸びるような滑りを見せます。同じ曲でも、演者が変わればその音色は全く違って聞こえてくるはずです。その違いを見つけることができれば、あなたはもうフィギュアスケート通と言えるでしょう。
編集のこだわりを聞き分けるマニアックな視点
フィギュアスケートのプログラムにおける音楽編集(カット)には、選手やコーチ、振付師の血の滲むような努力が隠されています。4分間という短い時間の中に、オペラ全幕のストーリーを凝縮したり、全く別の3曲を自然に繋いだりする作業は、まさに職人技です。曲かぶりが起きているプログラム同士で、その「編集点」を聴き比べてみるのも面白いものです。
例えば、『ムーラン・ルージュ』という映画音楽一つとっても、静かな愛のデュエットから入る選手もいれば、情熱的なタンゴのシーンをメインに据える選手もいます。どこを削り、どこを残したのかという選択には、その選手が「自分は何を一番表現したいのか」という意志が反映されています。スムーズな繋ぎに感嘆したり、意外な曲の組み合わせに驚いたりすることは、音楽好きのファンにとって最高の楽しみです。
また、最近ではオーケストラ演奏だけでなく、ピアノソロや現代的なアレンジを加えたカバー音源を選ぶ選手も増えています。原曲のイメージを壊さずに、いかに自分らしく「リブランド」しているか。音楽のテクスチャ(質感)にまで耳を澄ませてみると、競技会がまるで上質なコンサートホールのような、深みのある空間に感じられるようになるでしょう。
過去の名演技と比較して楽しむフィギュアの奥深さ
フィギュアスケートにおいて「定番曲」が存在するということは、そこには必ず「伝説の演技」が存在します。例えば『リマスタリング』された名曲を聞くたびに、かつての金メダリストの姿を思い出すファンも多いでしょう。新しい選手がその曲を選ぶことは、先人へのオマージュ(敬意)であると同時に、過去の記録への挑戦でもあります。
「あの名選手はこの曲で伝説を作ったけれど、今度の新星はどんな新しい風を吹き込むのだろうか」という視点は、フィギュアスケートの歴史を知るほどに楽しくなります。振り付けの中に、かつての名演技を彷彿とさせるポーズが隠されていたり、あえて全く違うアプローチで挑んでいたりすることを発見すると、スポーツが持つ継承と革新のドラマを感じることができます。
曲かぶりは、いわば時空を超えた対決です。現在の選手が、過去の自分や尊敬するスター選手と比較される重圧を跳ね除け、その曲に自分だけの「新しい魂」を吹き込んだとき、それは単なるカバーではない、新しい名作の誕生となります。こうした歴史の積み重ねを知ることで、フィギュアスケート観戦の奥行きは、どこまでも広がっていくのです。
フィギュアスケートの曲かぶりや著作権を知って観戦を深めるためのまとめ
フィギュアスケートにおける曲かぶりは、決して単なる偶然ではなく、高い得点を目指すための「戦略的な選曲」や、音楽が持つドラマ性を最大限に活かそうとする「表現の追求」の結果であることを解説してきました。また、近年厳しさを増している著作権のルールは、選手を守り、競技を文化として持続させるために不可欠な要素となっています。
ここまでのポイントを振り返ってみましょう。
・曲かぶりは、ドラマチックな構成やリズムの取りやすさなど、採点上のメリットがあるために起こる
・2014年のボーカル曲解禁以来、音楽の幅が広がり、歌詞を通じた豊かな表現が可能になった
・著作権ルールは厳格化しており、選手は正式なライセンス取得を求められるようになっている
・ファンがSNSに演技動画を投稿する際は、音楽の権利(公衆送信権など)に十分な注意が必要
・同じ曲でも選手によって解釈や編集が異なるため、比較することで各々の個性をより深く楽しめる
フィギュアスケートは、音楽という目に見えないパートナーとともに作り上げられる芸術的なスポーツです。次に大会を観る際は、ぜひ曲名やメロディだけでなく、その裏側にある権利関係や、選手がその曲を選んだ意図にまで想いを馳せてみてください。音楽の秘密を知ることで、氷上の物語はより鮮やかに、そして感動的に、あなたの目に映ることでしょう。正しい知識を持って、選手たちが命を吹き込む素晴らしい演技を心から応援しましょう。


