冬の空を舞台に、人間離れした跳躍と回転を見せるスノーボードのビッグエア。近年、その進化のスピードは凄まじく、かつては不可能と言われた回転数が次々と塗り替えられています。特に日本人の若手選手たちが、ギネス記録に認定されるような歴史的な偉業を達成していることをご存じでしょうか。
テレビやネット配信でビッグエアを観戦していると、「1440(フォーティーンフォーティ)」や「2340(トゥエンティスリーフォーティ)」といった大きな数字が飛び交います。これらの数字が何を意味し、どれほど凄いことなのかを知ると、観戦の楽しさは何倍にも膨れ上がります。
この記事では、スノーボード・ビッグエアの回転数とギネス記録について、初心者の方にも分かりやすく丁寧に解説します。世界の頂点で繰り広げられる異次元の戦いを知り、今シーズンの冬スポーツを思い切り楽しみましょう。
スノーボード・ビッグエアの回転数とギネス記録の凄さ

ビッグエアは、巨大なジャンプ台から飛び立ち、空中で繰り出す技の難易度や完成度を競う競技です。観客の視線が集中する中、たった一度のジャンプにすべてを懸けるスリリングな展開が魅力です。
ビッグエアってどんな競技?
ビッグエアは、スノーボードのフリースタイル種目の中でも、特に「一発のジャンプ」に特化した非常にダイナミックな競技です。高さ約30メートルを超える巨大なキッカー(ジャンプ台)を利用し、選手は空中で回転やグラブ(板を掴む動作)を組み合わせた華麗な技を披露します。
もともとはスノーボード文化の一部でしたが、その圧倒的な迫力とエンターテインメント性の高さから、2018年の平昌オリンピックで正式種目に採用されました。これ以来、世界中で人気が爆発し、トップライダーたちはより高く、より多く回ることを目指して日々限界に挑戦しています。
採点の基準は、技の難易度(Difficulty)、完成度(Execution)、高さと距離(Amplitude)、そして着地の綺麗さ(Landing)の4要素が中心です。選手は3回のジャンプを行い、そのうち異なる回転方向のベスト2本の合計得点で順位が決まるため、戦略的な駆け引きも見どころとなります。
ギネス記録に認定された最新の回転数
ビッグエアの世界では、常に「世界初」の称号をかけた熾烈な争いが続いています。現在、最も注目されているのは、空中での回転数を角度で表した数字です。一回転を360度として計算するため、数字が大きければ大きいほど、空中で多く回っていることを意味します。
2025年、日本の荻原大翔(おぎわら ひろと)選手が国際大会で成功させた「2340」という数字は、世界に大きな衝撃を与えました。これは横方向に6回転半も回っている計算になり、まさに重力を無視したかのような動きです。この驚異的な記録は、公式にギネス世界記録として認定されました。
かつては3回転(1080)ができればトップクラスと言われていた時代もありましたが、今や男子のトップ層では5回転(1800)が当たり前の世界になっています。技術の進化とともに、ギネス記録の基準値も年々引き上げられており、ファンの期待は高まるばかりです。
記録が更新され続ける驚きの理由
なぜこれほどまでに回転数の記録が更新され続けているのでしょうか。その大きな理由の一つに、練習環境の飛躍的な向上が挙げられます。最近では、雪上だけでなく、一年中練習できるマット着地のジャンプ施設や、巨大なエアバッグを備えた練習場が世界各地に整備されています。
これにより、以前よりも安全に高難度な技の練習を繰り返すことが可能になりました。また、スノーボードの板やバインディングといったギア自体の軽量化と高性能化も、選手のパフォーマンスを支えています。軽いギアは空中でコントロールしやすく、素早い回転を生み出す助けとなります。
さらに、選手たちのフィジカル面やメンタル面のトレーニングも科学的に進化しています。体幹の強さや空間認識能力を極限まで高め、時速60〜80キロでアプローチ(滑走)する恐怖心に打ち勝つ精神力が、次世代の記録を次々と生み出しているのです。
ギネス記録保持者・荻原大翔選手が放つ「2340」の衝撃

現在のスノーボード界で、最もその名が世界に知れ渡っている日本人の一人が荻原大翔選手です。彼が打ち立てた金字塔は、単なる記録以上の意味をスポーツ界にもたらしました。
6回転半!異次元の技「2340」とは
「2340」という技の名称を聞いて、瞬時にその難しさをイメージできる人は少ないかもしれません。これは、ジャンプしてから着地するまでのわずかな滞空時間の間に、体を6回と半分も回転させるという神業です。計算上、1秒間に2回転以上の猛烈なスピードで回っていることになります。
この技の恐ろしいところは、単に速く回るだけでなく、途中で板を掴む「グラブ」を入れ、さらに着地の瞬間に合わせて回転をピタリと止めなければならない点です。少しでも軸がぶれたり、着地で板の向きがずれたりすれば、大怪我に繋がりかねないリスクを伴います。
荻原選手はこの技を「バックサイド2340メロン」という形で成功させました。バックサイド(背中側)に回りながら、空中で板を掴むメロングラブを完璧にこなし、世界を震撼させました。この異次元の回転数は、現在の人間が到達できる限界点に近いとさえ言われています。
X Games 2025で見せた歴史的快挙
荻原選手がこの歴史的な2340を成功させた舞台は、2025年1月にアメリカで開催された「X Games(エックスゲームズ)アスペン大会」でした。X Gamesは、招待された世界トップクラスの選手だけが出場できる、アクションスポーツ界で最も権威のある大会の一つです。
驚くべきことに、彼は大会当日の練習中に右手首を骨折するというアクシデントに見舞われていました。しかし、彼は棄権することなく、ギプスを巻いた状態で決勝に臨みました。満身創痍の状態でありながら、誰も成し遂げたことのない大技を完璧にメイク(成功)させたのです。
この不屈の精神と圧倒的なスキルが生み出した結果は、後に「大会における初の2340回転トリック(男性)」としてギネス世界記録に正式認定されました。このニュースは日本国内のみならず、世界中のスノーボードコミュニティを熱狂させ、彼の名は歴史に刻まれました。
荻原大翔(おぎわら ひろと)選手のプロフィール
2005年生まれ、茨城県出身。幼少期から天才的な回転センスを発揮し、9歳で1080(3回転)を成功させる。2025年のX Gamesでの活躍により、世界最高の「スピンマスター」としてその地位を確立した。
世界が驚く日本人ライダーの技術力
荻原選手だけでなく、現在のスノーボード・ビッグエア界では多くの日本人選手が世界のトップを走っています。長谷川帝勝(はせがわ たいが)選手や木俣椋真(きまた りょうま)選手など、彼らもまた1980(5回転半)や2160(6回転)といった高難度な技を武器にしています。
日本の選手がこれほどまでに強い理由は、その独特の練習方法にあると言われています。日本では小規模ながら質の高い練習施設が多く、そこで磨かれた緻密なボードコントロールと、正確な軸の作り方が世界で高く評価されています。まさに「職人芸」とも呼べる精度が武器なのです。
海外のメディアも、「スノーボードの回転技術において、日本は今や世界一の輸出国だ」と報じるほどです。パワーに頼るのではなく、繊細な体の使い方と反復練習で培った感覚が、ギネス記録級の技を量産する背景となっています。観戦する際は、彼らの動きの「キレ」に注目してみてください。
女子トップライダーの進化と次世代の回転数

回転数の進化は男子だけの話ではありません。女子のスノーボード・ビッグエアも、ここ数年で驚くべき飛躍を遂げており、そのレベルはかつての男子トップ層に肉薄しています。
女子ビッグエアの最前線と記録
女子の競技シーンにおいても、回転数の壁が次々と打ち破られています。数年前までは「720(2回転)」や「900(2回転半)」が優勝ラインでしたが、現在では「1260(3回転半)」や「1440(4回転)」を成功させなければ表彰台に登ることは難しい時代になりました。
女子における歴史的な転換点は、オーストリアのアンナ・ガッサー選手が見せた活躍です。彼女は世界で初めて女子として1260を成功させ、その後さらに難易度の高い技を次々と開発しました。彼女の存在が、女子でも高回転が可能であることを世界中のライダーに知らしめることになったのです。
最近では、イギリスのミア・ブルックス選手など10代の若手選手が、男子顔負けの高さと回転数を見せるようになっています。彼女たちは子供の頃から高度なトレーニングを積んでおり、空中での回転軸の安定感は目を見張るものがあります。女子の戦いも目が離せない熱い展開が続いています。
村瀬心椛選手や岩渕麗楽選手の挑戦
日本女子チームもまた、世界屈指の強豪国として知られています。その中心にいるのが、村瀬心椛(むらせ ここも)選手と岩渕麗楽(いわぶち れいら)選手です。彼女たちは常に新しい技に挑戦し続け、国際大会で何度も表彰台を独占する快挙を成し遂げています。
岩渕選手は、2022年の北京オリンピックで、女子として世界で初めて「フロントサイド・トリプルアンダーフリップ1260」という超大技に挑戦しました。惜しくも着地は乱れましたが、その果敢な挑戦に会場からは割れんばかりの拍手が送られ、世界中のファンに感動を与えました。
一方の村瀬選手も、10代で北京オリンピックの銅メダルを獲得するなど、驚異的な安定感を誇ります。彼女たちは1260(3回転半)を完璧に自分のものにしており、さらなる高みである1440(4回転)の習得に向けて努力を続けています。日本人女子の活躍は、これからのビッグエア界の鍵となるでしょう。
岩渕麗楽選手が北京五輪で見せた挑戦は、結果以上に大きなインパクトをスポーツ界に残しました。失敗を恐れず、女子の限界を押し広げようとするその姿勢は、次世代の女子ライダーたちの道標となっています。
未来を担う若手選手たちの台頭
村瀬選手や岩渕選手を追うように、さらに若い世代の選手たちも台頭しています。例えば、深田茉莉(ふかだ まり)選手などの若手ライダーは、ワールドカップで表彰台に登る実力を備えており、日本チームの層の厚さを象徴しています。
彼女たちの特徴は、非常に高い「スイッチ(逆足での滑走)」能力です。通常のスタンスとは逆の向きでジャンプ台にアプローチし、そこから高回転を繰り出す技術は、採点上非常に高く評価されます。回転数そのものだけでなく、いかに難しい姿勢から技を始めるかという点でも進化が続いています。
また、彼女たちはSNSを通じて世界のライバルたちの動向を常にチェックしており、技の情報の共有スピードも非常に速いです。一人が新しい技を成功させると、すぐに他の選手も追随するという良いライバル関係が、女子ビッグエア界全体のレベルを底上げしているのです。
観戦に役立つ回転数の数え方と専門用語の基礎知識

ビッグエアを観戦していると、実況で聞き慣れない用語が頻繁に出てきます。これらを少し理解しておくだけで、目の前で起きている出来事の凄さがよりクリアに見えてきます。
180から2340まで!数字の意味を解読
スノーボードの回転技は、すべて角度で表現されます。これは円の一周が360度であることを基準にした呼び方です。実況で「セブン」や「テン」といった略称が使われることもありますが、これらはすべて回転数を表しています。
基本的な数字の対応表を以下にまとめました。これを知っておくだけで、選手がどれくらい回っているのかが一目で分かります。
| 回転数(角度) | 読み方 | 実際の回転数 |
|---|---|---|
| 360 | スリーシックスティ | 1回転 |
| 720 | セブントゥエンティ | 2回転 |
| 1080 | テンエイティ | 3回転 |
| 1440 | フォーティーンフォーティ | 4回転 |
| 1800 | エイティーンハンドレッド | 5回転 |
| 2160 | トゥエンティワンシックスティ | 6回転 |
| 2340 | トゥエンティスリーフォーティ | 6回転半(ギネス級) |
最近のトップレベルの大会では、男子なら1440以上、女子なら1080以上がスタンダードな数字となっています。数字が大きくなるほど、滞空時間中の動きが高速になり、目が追いつかないほどの迫力になります。
回転方向「フロント」と「バック」の違い
回転数と同じくらい重要なのが、回転の方向です。主に「フロントサイド(FS)」と「バックサイド(BS)」の2種類があります。これは、ジャンプの瞬間に体のどちら側から回転を始めるかによって決まります。
フロントサイドは、お腹側を進行方向に向けて回るスタイルです。回転中に前方が見えやすいため、比較的安全と言われますが、スタイルを出すのが難しい面もあります。対してバックサイドは、背中側を進行方向に向けて回るスタイルで、初期動作で視界が遮られるため恐怖心が伴いますが、ダイナミックな動きになりやすいのが特徴です。
大会のルールでは、上位2本の合計得点を競う際、「異なる回転方向の技」を組み合わせなければならないという規定があります。そのため、選手はどちらか一方の回転が得意なだけでは勝てません。両方の方向に高回転を回せる「オールラウンダー」な能力が求められるのです。
高得点を生む「コーク」と「グラブ」の重要性
回転の数字や方向以外にも、技の名前には「コーク」や「グラブ」といった言葉が含まれます。これらは技のバリエーションや難易度をさらに高める要素です。「コークスクリュー(通称コーク)」は、単なる横回転ではなく、縦方向の回転を織り交ぜた3D回転のことを指します。
軸を斜めに傾けながら回るコークは、回転数が増えるほど制御が難しくなりますが、その分得点は高くなります。また、「グラブ」は空中でボードのどこを、どの手で掴むかという動作です。「メロン」や「インディ」など様々な種類があり、グラブをしている時間が長く、姿勢が美しいほど高い評価に繋がります。
たとえ同じ「1440」であっても、コークの回数やグラブの美しさによって得点は大きく変わります。数字だけに惑わされず、選手の姿勢がいかに洗練されているかを見極めるのが、ビッグエア通の楽しみ方と言えるでしょう。
ビッグエアを10倍楽しく観るための注目ポイント

ルールや数字の知識が身についたら、次は実際の観戦でどこに注目すべきか、より実践的な楽しみ方をご紹介します。
選手の滞空時間とジャンプの高さに注目
ビッグエアの最大の魅力は、なんといってもその「高さ」です。選手がジャンプ台から飛び出した瞬間、ビル数階分にも相当する高さまで体が舞い上がります。この滞空時間が長ければ長いほど、より複雑で多くの回転を繰り出すチャンスが生まれます。
観戦する際は、選手が飛び出す瞬間のスピードに注目してみてください。アプローチ(助走)でいかにスピードを殺さず、エネルギーを上方向への反発に変えられるかが勝負の分かれ目です。トップ選手が最高のジャンプを見せた時、まるで空中で静止しているかのような感覚を覚えることがあります。
また、カメラのアングルによっては、背景の景色や観客との対比でその高さが際立ちます。夜間のナイター開催では、ライトアップされた空に浮かび上がる選手のシルエットが非常に幻想的で、スポーツの枠を超えた美しさを感じることができるはずです。
運命を左右する「完璧な着地」の判定
どんなに凄い回転をしても、着地で転倒してしまえば得点は大幅に低くなってしまいます。ビッグエアにおいて着地は「技の完成」を意味する最も重要な局面です。氷のように硬い雪面に、時速数十キロの衝撃を受け流しながらピタリと止まる技術は驚異的です。
ジャッジ(審判)は、着地の際の手つきがないか、板が斜めに向いていないか、ふらつきがないかを厳しくチェックしています。理想は「クリーンランディング」と呼ばれる、全く揺らぎのない着地です。成功した瞬間に選手が見せるガッツポーズや叫び声からは、その極限の緊張感が伝わってきます。
さらに、着地した後の滑走姿勢(アウト)までが評価の対象となります。最後まで気を抜かずに滑り切る姿を見守るのも、観戦の醍醐味です。着地が決まった瞬間に会場全体が揺れるような大歓声に包まれる一体感は、現地観戦はもちろん、画面越しでも十分に伝わってきます。
選手個人のスタイルが光る演技の美しさ
スノーボードは競技であると同時に、自己表現の場でもあります。同じ「1080」を回るにしても、選手の体格や筋力、好みのスタイルによってその見え方は千差万別です。ダイナミックに大きく回る選手もいれば、コンパクトでキレのある回転を得意とする選手もいます。
特に「グラブ」の持ち方や、空中で板を引っ張る「ボーン(足を伸ばす動作)」には、選手それぞれのこだわりが詰まっています。「あの選手のグラブは個性的でかっこいい」「この選手の回転軸はいつも綺麗だ」といった自分なりのお気に入りを見つけると、観戦がさらに楽しくなります。
近年は高い回転数ばかりが注目されがちですが、あえて回転数を抑えてでも独自の美しさを追求する選手もいます。多様なスタイルが共存しているのがスノーボードの良さであり、ビッグエアの深みでもあります。数字の凄さとスタイルの美しさ、その両方をぜひ楽しんでください。
近年のビッグエアは音楽やDJの演出も非常に凝っています。選手のパフォーマンスに合わせて会場が盛り上がる様子は、さながら音楽フェスのようです。冬季スポーツの中でも特に若々しくエネルギッシュな雰囲気を感じてみてください。
スノーボード・ビッグエアの回転数とギネス記録を知って冬のスポーツを楽しもう
スノーボード・ビッグエアの世界では、今まさに歴史が動いています。かつては想像もできなかった「2340」という6回転半の領域に人類が到達し、それを日本の荻原大翔選手が成し遂げてギネス記録に認定されたという事実は、日本のファンにとって誇らしいニュースです。
回転数の数字の数え方や、フロント・バックといった方向、そしてグラブの重要性を知ることで、テレビの前の解説もずっと身近に感じられるようになるはずです。数字の大きさに驚くだけでなく、その裏にある選手の凄まじい努力や挑戦のドラマに思いを馳せてみてください。
村瀬心椛選手や岩渕麗楽選手をはじめとする女子チームの躍進も見逃せません。男子も女子も、日本勢は世界トップクラスの実力を維持しており、これからの国際大会でも多くの感動を与えてくれるでしょう。ビッグエアという競技は、これからも新しいギネス記録や「世界初」の技で私たちを驚かせてくれるに違いありません。
今年の冬は、寒さを忘れるほど熱いビッグエアの観戦を楽しんでみませんか。空中で舞うライダーたちの勇姿に注目し、彼らが挑む限界のその先を、みんなで一緒に応援しましょう。



